名古屋国際会議場⑦
「あっごめん」
通路に立ち止っている私たちの横を瑞希先輩が通る。
「お前達、席に着けよ」
続いて門倉先生も。
私が席に戻ろうといたとき、江角君が持っていたレジ袋を差し出す。
「鮎沢、これ飲んどけ」
ぶっきらぼうに渡されたレジ袋の中身は、葛根湯と風邪のひき始めに効くと書いてある栄養ドリンク。
「えっ」
驚いて見上げたときには、もう江角君は自分の席に向かって歩き出していた。
レジ袋を持って席に戻ると、里沙ちゃんが手を合わせて「ゴメン」と謝ってきた。
「うん。いいよ」
もしあの時、里沙ちゃんが高橋さんの話を遮ってくれなかったら、私はどうなっていたのだろう。
追い詰めるような高橋さんの口調。
正直、怖かった。
何か決定的なものを突き詰められるようで。
「なに?そのレジ袋」
黙ってさっきの事を考えていた私に気が付いた里沙ちゃんが、話題を変えてくれた。
「風邪薬」
「江角君が?」
「そう」
なんで、私にこんなに高そうな薬をくれたのか分からなかったけれど、里沙ちゃんの言葉で気が付く。
「さすがね。だって千春、顔少し赤いもの」
そう言いながら、手を私のおでこに当ててきた。
冷んやりして気持ちが良い。
「やっぱ、少し熱あるよね」
「湯上りだから」
今度は私が里沙ちゃんの、おでこを触る。
こっちも冷んやりして気持ちが良い。
「でしょっ」
「だね」
私は江角君に言われたとおり、薬を飲むことにした。





