名古屋国際会議場⑤
夕食に向かうとき、江角君が私の顔が少し赤いと言った。
たしかに、お風呂上りなのでポカポカと温まって上気しているのが自分でも分かる。
マッサンとコバが寄って来て、顔の赤い理由を色々と面白おかしく推理していると、途中から宮崎君も加わってきた。
それなのに言い出しっぺの江角君は、知らんぷり。
どこかに行ってしまったのか、姿も見えない。
食卓に着いて、並べられたお料理を見ながら里沙ちゃんや今川さんとキャーキャー騒いでいるときも、江角君が座るはずの席は空いたまま。
どこに行ったのだろうと辺りを見渡していたら、その私を高橋さんがジッと見ている。
「誰かを探しているんですか?」
高橋さんは表情のない顔のまま、感情の無い声で私に話し掛けてきた。
いや、感情の無い声と言うよりどちらかと言えば、感情を押し殺したような声。
さほど付き合いが深くないので、それは私の思い過ごしなのかもしれない。
「ううん、みんな集まったかな。と思って」
江角君がどこに行ったのかと思ってキョロキョロしていたなんて言えるはずもなく、適当に誤魔化した。
「江角先輩なら未だ来ていませんよ。さっき廊下で門倉先生と何か話をしていましたが、それっきり見ていません」
メガネの奥から見える高橋さんの目は、私を虫眼鏡の奥から観察しているように見えた。
「あっ、そうなんだ」
見透かされていたみたいで、言葉が進むごとに小さくなっていく。
高橋さんの視線から逃げるように、反対側に座っている里沙ちゃんに何かを話し掛けたとき、高橋さんの声が私を追いかけて来た。
「門倉先生に聞けば、江角先輩がどこに行ったか分かりますよ」
私はその声から逃げるように、ただ「いいよ」とだけ答えると、高橋さんの声が今度は先回りして私の前で通せんぼしてきた。
「門倉先生に聞くのが嫌だったら、教えましょうか?私、そのときの会話、偶然聞いてしまいましたから」
声は相変わらず無表情だったけれど、その言葉に驚いて振り返った私の後ろから、突然ガチャンという大きな音が響いた。





