名古屋国際会議場③
バスは長い時間高速道路を悠々と走っていたけれど、その落ち着いた雰囲気を保ちながら浜松サービスエリアに吸い込まれて行く。
建物の壁や看板のいたる所に、ピアノの鍵盤模様が書かれてあった。
これは、この浜松に楽器メーカーが沢山あるからだろう。
私が使っているオーボエもメイドイン・ハママツだ。
このサービスエリアで昼食休憩をとると、愛知県は直ぐ傍。
再び乗車したバスの中から窓の外を眺めていると、サービスエリアの一角に設けられたドッグランで遊ぶ何組かの家族が見えた。
犬と戯れる人たちを見ていると、どうしてもロンの事を思い出す。
ロン、今頃どうしているのかな。
バスは一時間ほどで愛知県のホテルに到着した。
豪華なシティーホテルではないけれど、広い研修室が付いていて去年も、ここに泊まった。
バスを降りた一年生たちは、背伸びをしたりお喋りをしたりして寛いでいた。
去年の私たちも、そうだった。
でも、今年は違う。
私たち二・三年生はバスを降りると直ぐに荷物室に飛んで行き、楽器や機材に飛びつく。
そして、一年生を呼び寄せて一緒に会議室に運ぶ。
自分たちの私物は玄関に転がしたまま。
田代先輩と里沙ちゃんが荷物の見張りを兼ねて、全部荷物があるか確認している。
研修室に運んだ楽器の確認は先ず数の確認をマッサンと江角君が行っている。
積み込んだものと、降ろしたものの数。
コバと私で、数の確認が終わった物のケーを開いて壊れたりしていないか、不具合の確認をする。
ひとつひとつ見るので結構時間が掛かるけれど、直ぐに数の確認が終わった二人が応援に入ってくれた。
一年生たちは勝手が分からないので上級生の指示に従って、私物を部屋に運ぶ班、使わないテーブルを片付ける班、掃除をする班、譜面台や椅子を研修室に並べる班に分かれて作業を進める。
その間に、瑞希先輩は門倉先生と一緒にホテルの人と打ち合わせを行っていた。
すべての準備が整うまでに、そう時間は掛からなかった。
あとは、楽器の調整をしながら瑞希先輩と門倉先生が打ち合わせを終えて帰って来るのを待つだけ。
ホッとして廊下を研修室に向かって歩いていると、風に運ばれてきた香りに海の匂いが多いと感じ、今朝みんなで集まって演奏した君と見た海を思い出していた。





