名古屋国際会議場②
バスが動き出すとロンは五、六歩バスを追いかける仕草をしたけれど、すぐに止めた。
危ないので、車を追いかけないように躾けているから止めた。
そででも我慢できずに五、六歩も追いかけてしまった。
窓越しにロンを見る。
ロンはいつまでも仁王立ちのまま、小さくなって行く私をジッと見つめている。
その、一途な眼差しに胸がキュンと切なくなる。
バスが道を曲がって、どれだけ遠く離れてしまっても、ロンの一途なその姿は私の心に焼き付いていつまでもクッキリと見る事が出来た。
学校を出てバスは高速道路に上がり、直ぐに箱根付近の山間の道を通り抜ける。
山はもう所々美しく色づいていて、窓に頬を当てると外の冷たさが伝わってくる。
まだロンの、あの眼差しが頬を熱くしているのが嬉しい。
箱根を過ぎて富士川を超えると直ぐ、遠くに富士山が見えて来て皆歓喜の声を上げて携帯で写真を撮ったりしていた。
そうしているうちに、今度は左手側に青く壮大な太平洋が現れる。
湘南で見る海よりも静かで荒々しい。
つい数時間前に河原で演奏した“君と見た海”を思い出す。
そう言えば、ロンと一緒に海に行ったことがない。
来年の夏には、ロンを連れて海に行こう。
屹度ロンは大喜びして、はしゃぎまわるんだろうな。
海水浴場で遊んでいるロンの事を考えていると、自然に口角が上がり、気を緩めると声を出して笑ってしまいそう。
隣に座っている里沙ちゃんが、そんな私に気が付いて「またロンのこと、考えているでしょう?」と言ってきた。
私は正直に「うん」と答えた後、嬉しくなって「なにを考えていたか当ててみて」と甘えて見る。
里沙ちゃんは大して考えもしないで直ぐに「ロンと海に行きたいって思っていた」と答えを当ててしまった。
私が凄いと感心している間に、里沙ちゃんから一言付け加えられる。
「私も行くからね」
「えっ、行くって?」
「海に決まっているでしょ」
里沙ちゃんと海に行くことを想像して思い浮かぶのは、にやけたロンの顔。
グラビアモデル並みの里沙ちゃんの水着姿を観たら、屹度ロンは私なんか放っておいて大喜びするのに違いないのだ。
なんだかロンと別れた後、切なくなっていた気分が損をしたように思えてきた。
すると、里沙ちゃんに頬を突かれて「また、すぐそうしてやきもちを焼く」と心を見透かされて恥ずかしかった。





