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名古屋国際会議場①

 学校に到着して車を降りるときロンは少し寂しい表情を見せた。

 もちろん私だって寂しい。

 いや、私のほうが寂しいし心細い。

 だって吹奏楽の大会のたびに私は悩み落ち込んでいて、その都度ロンは私の心を癒してくれるのに、いつも本番の時は居ないんだもの。

 多くの困難を乗り越え、市や県の大会で選ばれて歓喜に沸いた輪の中で一緒に喜びたくても、いつもロンは居ない。

 せめてここで行う、最後の練習だけは聞いていて欲しい。

 楽器をバスに積み込む前に、学校で行う最後の全体練習のため中庭に集まった。

 会場には入ることが出来ないロンとマリーでも、お休みの日の学校ならそんなに問題はない。

 一日サボってしまった全体練習だからいつもより緊張したけれど、ロンに見つめられていると、その瞳が私の持っている負の要素を全て吸い取ってくれるように落ち着く。

 それに、なんだか全員で一日サボったおかげで、何故か緊張感も緩い。

 ロンに本番と変わりない曲を披露出来たら良いなと思って演奏していたら、いままで必ず誰かがミスしていた事なんて嘘のように完璧に近い演奏が出来た。

 全体練習が終わると、何人かの部員がロンとマリーの所に飛んでいく。

 それぞれにナデナデされて嬉しそう。

 瑞希先輩も私も、その輪の中には加わらず全体の片付け具合や一年生の世話、それに忘れ物などの段取りに抜けがないか確認していた。

「もういいよ、千春。大体できたから」

 瑞希先輩にそう言われたけれど、先輩だって早くマリーを撫でたいのは分かっていたので「最後まで、させて下さい」と断ると、瑞希先輩はニッコリと手を伸ばして私の頭をナデナデしてくれた。

 全部の楽器や機材をバスに積み込んで、その確認も終了する頃には、もう何人もバスに乗り込んでいてロンとマリーの傍に居るのはいつものメンバーだけ。

「やっと来たね。ご苦労様」

 里沙ちゃんが、そう言って自分の居たロンと正面に向き合う特等席を開けてくれた。

 女の子に囲まれっぱなしでデレデレしていたくせに、私が来ると「君は特別だよ」と言わんばかりに体をあずけるように甘えて来る。

 正直、こんなにされると更に好きになってしまう。

 いつまでもこうしてロンを撫でていたいけど、そう言うわけにもいかない。

 別れ際、自分自身を励ますようにポンとロンの頭を突いて駆けだした。

 そのまま一気にバスに乗り込む。

 バスの扉ついている手すりに手を掛けたとき、ワンとロンが吠えた。

 バスの入り口に一段脚を掛けた状態で振り向くと、ロンはリードを引っ張って仁王立ち。

「いってくるね」

 私が明るく手を振りながら答えると、ロンはお座りをしてもう一度ワンと吠えた。


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