いざ名古屋⑩
最後に課題曲を演奏した。
これは、私たち現役高校生組は学校が違っても練習しつくしているので難なく演奏できる。
足立先輩たちOBにとっても気にかけていた曲だろうし、中学とは言え吹奏楽部顧問の持田先生なら知っていて練習もしてみただろう。
まあ、これを演奏するのは予め伝えてあるから、茂山さん以外は大丈夫だろうと思っていたら、その茂山さんまでキチンと演奏出来たことには驚かされた。
演奏の中盤くらいに、お母さんの車が土手を降りて来るのが見えた。
まだまだ学校の集合時間までは充分余裕があるのに、早い時間に申し訳なく思う。
課題曲の演奏が終わり楽器を片付けはじめると、もうお別れの時間が迫っている事に気が付いたロンが飛び掛かるように甘えてきた。
その甘え方は、私がまだ小学生だった頃の若かったロンの甘え方に似て、幼い者同士がじゃれ合うような感じ。
飼い始めた頃を懐かしく思い出しながら、私も甘えられるままにキャーキャー騒いで逃げる真似をして楽しんだ。
そうして、私たちがじゃれ合っていると、マリーも同じように瑞希先輩に甘えだして、ラッキーは足立先輩の傍に寄り添って、それを見守っている。
屹度、犬たちには分かるんだ。
大切な人が、今日家に戻って来ないこと。
自分たちが、どんなに我儘を言っても、連れて行ってもらえない所がある事を。
ロンと、ひとしきり遊んだ後、里沙ちゃんとロンと一緒にお母さんの車に乗った。
瑞希先輩のお母さんの車には、瑞希先輩の他に田代先輩と今川さん、それにマリーが乗り、茂山さんの車には男子たちが乗った。
見送ってくれる先生たちに別れを告げ学校へ向かう。
そしてその先は、いざ名古屋!





