いざ名古屋⑧
六時半になると、どこからかラジオ体操の音楽が聞こえて来た。
音のする方向を見ると、対岸でお年寄りたちがリズムに合わせて体を動かしているのが見える。
ラジオ体操の音楽が終わると、今度は私たちの番。
学校へ行く前の早朝練習。
さすがに持田先生は吹奏楽部の顧問だけあって何でも演奏できるみたいで、ホルンを今川さんと一緒に演奏する。
そして麻子さんは持ち運びのできるシンセサイザーを持ってきてくれてパーカッション。
足立先輩はオーボエが田代先輩と私の二人なので、大学の友達からフルートを借りて来て、それを担当してくれて、山下先輩もクラリネットをファゴットに持ち替えてコバと一緒に演奏してくれる。
驚いたのは、茂山さんがサックスを持ってきたこと。
しかもバリトンサックスなので里沙ちゃんのテナーサックスよりも一回り程大きい。
トランペットは宮崎君と伊藤君で、クラリネットはマッサンと美緒の二人。
江角君のトロンボーンだけが一人きりなのは可哀そうに思ったけれど、本人はそんなこと全然思っていないみたいで悠々としていて、凄いと感じた。
もし私が同じ立場だったら、屹度オドオドとしていただろう。
今回ここに集まったのは、仲間内での壮行会はもちろんだけど、試してみたいことがあって夏休み前から少しずつ練習してきた曲を演奏する事。
試してみるその曲は“君と見た海”
この曲は、合唱曲として“超”が付くほど有名な曲だけど、吹奏楽として演奏されることは先ず無い。
何故この曲をこの日に演奏するのかというと、合唱曲であることと、曲の歌詞。
私たちは、あの夏の日に学校は違えてしまったけれど、共に全国吹奏楽コンクール神奈川県大会を戦った。
どちらかが全国大会に進むことが出来れば、そのときにこの曲を演奏して壮行会としよう。と江角君と伊藤君の間で決まったことが発端。
特に曲の最後の歌詞「君と見た夏の日の思いでは、いつまでも輝いてる」が素晴らしい。





