いざ名古屋⑥
結局、吹奏楽部全員が中庭に集まり、おやつを囲んでちょっとしたパーティー。
顧問の門倉先生に怒られるかと心配していたら、その門倉先生まで沢山お菓子を持ってきてくれて私たちの輪の中に入って大はしゃぎ。
そしてその日は、そのまま最終下校時刻を待たずに早めに帰った。
帰り道、みんなとお喋りしながら帰りながら不安に思う。
本当に、これで良かったのだろうか。
私の考えていた事は直ぐに察知され、瑞希先輩は横に並んできて言った「千春はなんにも心配しないで。決断したのは私だから」と。
家に帰ってからも、今までの疲れを取るように楽器を持たずにのんびりと過ごした。
お父さんやお母さんとお喋りしながら夕食を楽しんで、少しぬるめのお風呂にゆっくりと浸かり、ロンとの散歩も久しぶりに夜空を眺めながらのんびりと楽しんだ。
でも、全く練習から離れたわけではない。
耳に当てたヘッドフォンからは絶えず課題曲と自由曲が流れている。
いつものベンチに腰掛けたときに、一旦音楽を止めて夜空を見上げた。
久し振りに見る夜空。
体育祭前に火球を見て以来。
秋が深まって夜の闇も透明度を増して、星たちが綺麗に浮かび上がる。
その星々を縫うように、翼端灯を点滅させながら悠々と何機もの飛行機が様々な目的地を目指して行き交う。
今もすぐ目の前を、飛行機がゆっくりと東の空から西の空へ流れて行く。
屹度羽田空港を飛び立ったばかりなのか、高度もまだ低くて横にたくさん並んだひとつひとつの窓までハッキリと見える。
. どんな人が乗っているのだろう。
そして、私が飛行機を見上げているように、飛行機の中の人も地上にいる、この公園のベンチに腰掛けている私を見ている人が居るのではないかと思った。
そう思っていると次の瞬間、確かにその窓の一つから私を見ている視線に気が付いてハッとして目を凝らして見る。
一瞬目が合った後、その人は隣に並んでいる人と話をしているのか、窓に背を向けた。
長い栗毛色の髪がフワッと流れる。
隣の席に座っているのは屹度フィアンセに違いない。
二人は海外から帰って来て、これから二人の大切な場所へ向かうのだ。
見えるはずもない飛行機の窓。
それを眺めながら私はそんな風に思って、その飛行機が西の空に見えなくなるまで追いかけていた。





