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いざ名古屋⑤

 あの時、私は勉強が遅れているという強迫観念に囚われていた。

 何度繰り返し勉強して頭に叩き込んだつもりでも同じミスを繰り返してしまい、そのケアレスミスは苦手教科ばかりではなく得意教科まで似たようなミスを侵してしまう。

 焦りに潰されまいと更に勉強をしているうちに、脳の神経が麻痺するようにただ勉強を続けている状態だったのかも知れない。

 そしてあの日、意識を失った私は江角君に抱きかかえられてハンター邸で点滴を受けながら昼近くまで寝る。

 ゆっくりと睡眠をとった脳は、江角君が教えてくれる内容を喜ぶように受け入れ、その晩は江角君の助言に従い必要最低限の勉強を済ませ、今までより早い時間に寝た。

 迎えた試験は今までのモヤモヤした気持ちが嘘のようにスイスイと問題が解けて行きの結果は今までにないくらい良かった。

 そして今の私たち。

 中間テストの間部活で練習できない時間があり、それからは時間を取り返すように練習を続けている。

 最終下校時刻を過ぎてからは、各々が家や集会場を借りてまでして練習している。

 それなのに、今まで無いくらい全体練習でミスが出続けるのは屹度あの時の私のように脳が疲れ切っているのだと思う。

「今日はみんなで楽しみませんか?」

「そうね」

 唐突に言った言葉の意味を瑞希先輩は理解してくれて頷いた。

 直ぐに部室に戻るために二人で階段を駆け下りる。

「なんで分かった?」

 走りながら瑞希先輩が聞いてきた。

「私の経験から」

「ハンター邸ね」

「はい」

 そう返事をしたけれど、練習を休む判断をするのは物凄く勇気がいると思う。

 そして瑞希部長は、その決断をした。

 部室に戻って、今日の練習はここで終了する事と、購買で余っているお菓子やジュースなどを買って中庭で談笑することが告げられると、真っ先にマッサンが歓喜の声をあげて売店に駆けだし、それを追いかけるようにみんなが駆けて行った。

 久し振りに見るみんなの笑顔。

 その笑顔を目で追い駆けている私の前を、江角君が悠々と通り過ぎて行く。

 江角君は私の前を通り過ぎた後、何故か急に体を反転させて私を見て笑うと「やるな」と褒めてくれたあと、拳を軽く私のおでこにコツンとしてから走って行った。

 唖然として、その後姿を見送っていた私。

 一瞬の間をおいて、隣にいた里沙ちゃんが「カッコイイ!」と絶叫していた。


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