いざ名古屋③
フェンスに掴まり深呼吸してから、覚悟を決めて下を見る。
ん?真っ暗で何も見えない。
そう、目を瞑っていた。
恐る恐る目を開けると、そこには何もなく、下校中の生徒が自転車を押していた。
突然、屋上の違う方向からキャーっと言う悲鳴が聞こえたので、慌てて走って行き下を覗くと、悪戯好きの男子が何かで女子を揶揄っていただけでホッとする。
フーっと溜め息をついた時、後ろでドスンと言う鈍い音。
誰かが墜ちた音。
足元、コンクリートの床伝いに振動が伝わって来るのを確かに感じた。
まさか、瑞希先輩が。
そう思うと、今まで優しくしてくれた先輩の姿が目の中に溢れ、涙となって零れ落ちる。
音のした方向に体の向きを変え、歩こうとするけれどナカナカ足が重くて進まない。
そして目の前には宙に浮いている瑞希先輩。
屹度、魂が体を離れて宙に帰ろうとしているのだ。
嫌だ!
そんなの絶対に嫌!
宙になんて返さない。
私は慌てて、その瑞希先輩の魂をガッチリと捕まえた。
初めて掴んだ魂は、意外に柔らかい。
それに暖かい。
瑞希先輩の魂が、優しく私の髪を撫でてくれる。
「どうしたの?ちはる」
「み・みずきせんぱい、いかないでください」
「わたしが、どこへ?」
「まだ、てんごくにいかないでください」
“コツン”っと、軽く頭を叩かれた。
「千春。確りしろ」
瑞希先輩の魂が私の顔を手で支える。
「えっ?」
今目の前にいる瑞希先輩は、本物の生きた瑞希先輩だった。





