ハンター坂⑬
車の中で、里沙ちゃんが今日習った勉強の内容を、ノートの内容を中心に教えてくれた。
開かれたノートのページは、今日の所だけ丁寧で字も綺麗に書かれてある。
一通り教えてもらったあと、今日私に降りかかった災難について聞いてみた。
なにしろ、登校途中に急に意識が飛んで、倒れたと言うのだから。
里沙ちゃんに聞くと、やはり駅を出てしばらくして急に倒れたと言う事だったけれど、正確には倒れなかったらしい。
倒れたのに、倒れなかったなんて不思議な話。
そして、そこのところを詳しく聞こうとすると、里沙ちゃんはウフッと悪戯っぽく笑うと私の耳元に口を近づけて小声で教えてくれた。
話によると、駅を出て少しの所で急にふらついた私が倒れそうになったところを江角君が抱きかかえてくれたらしい。
気を失っている私は江角君に抱きかかえられたまま、ハンター邸まで運ばれた。
耳から挿入された言葉は、まるで顔が赤くなる元を注ぎ込まれたように、そのまま耳から順に燃えていく。
それから、里沙ちゃんの家に着くまで雑談して別れた。
お母さんと二人っきりになると、急に江角君と居たあの病室が懐かしく感じて来る。
車の背もたれに頬を当てても、これとは違う優しさがあったと思う。
車窓から流れる色とりどりの趣を凝らした建物や風景も、あの病室の揺れるーカーテンには敵わない。
家について車を降りる。
お母さんが玄関を開けてくれている間に、ポストに投函されているものがないか確認しに行く。
「あれ?」
ポストの中に、切手の貼られていない小さな袋を見つけた。
宛名を見ると“鮎沢へ”とだけ書かれてある。
中には拳くらいの大きさの四角いもの。
何だろうと思い、簡易的に閉じられた封を開けて覗いてみると、そこには私の大好きなレモン牛乳の200mlパック。
「ゆっくり休め」
マジックでパックに一言だけ書かれてある言葉を指でなぞると目から優しい滴が頬を伝った。





