ハンター坂⑪
江角君に数B・数Ⅱ・物理と、私の苦手な教科を中心に、教えてもらいながら一緒に勉強する。
江角君は教え方が上手いから、いつもは敬遠している内容も楽しく覚えられ、あっと言う間に時間が過ぎて、時計が三時を告げた。
「俺、家に帰る」
物理の教科書を閉じて江角君が言う。
私は未だ一緒に勉強したかったから、少しだけ駄々をこねて、お母さんの車で一緒に帰ろうと言うと、やんわりと断られた。
「もう直ぐ立木(里沙ちゃん)たちが来るから、後はそいつらに鮎沢の世話を任すことにするよ」
そう言って江角君は中学の卒業式の時みたいに、格好いい敬礼のポーズを決めると、追いかける私の視線に振り返ることなく部屋を出て行った。
なんとなく江角君が出て行った部屋は急に、つまらなく感じてベッドに仰向けに寝転ぶ。
見えるのは、白い天井に白い壁白いベッドに白いシーツ、それに白いカーテンが時折入って来る穏やかな風に揺れている。
今まで、こんな白色一辺倒な部屋だったろうか?
お花畑の香りのように色とりどりの、優しくて明るい部屋だと思っていたのに、今はまるで雑菌を絶対に寄せ付けないよう言う確固たる意志を持った、頑固で固い部屋に思える。
窓から入って来る風も急に冷たく感じてシーツに包まり、手だけだして読む古文の教科書は、これまでにない程つまらなく価値がない。
いつの間にか白い部屋は、時計の音に支配されていた。





