ハンター坂⑩
「ごめんなさい。助けてもらった上に、付き添ってもらって」
今更、私に付きそってくれている江角君の事が心配になった。
「いいよ、俺も体調が悪くて、丁度さっきまで診察を受けて寝ていたところだったから」
江角君が私を心配して付き添ってくれているのは分かっていたので、その言葉が嘘だと言うことは幾ら鈍い私でも気が付く。
でも「ありがとう」とだけ感謝の意味を込めて返し、ふたりで本当なら学校で食べるはずのお弁当を、心地好い病室で食べる。
私たちの事が羨ましいのか、小鳥たちが窓際に植えられた木の枝に集まってチュンチュンと囃し立てていた。
お弁当を食べ終わると、江角君はまた最初目覚めた時見たように教科書を広げて勉強を始めたので、私も同じ教科書を鞄から取り出す。
数学の教科書、しかも苦手な数B。
江角君が教科書を広げた私を意味深な目でチラッと見た。
何か言いたそうな、その意味深な目が何を言いたいのか分かる気がする。
兄に甘えるみたいに、今日は江角君に甘えさせてもらおう。
「江角君、一緒に勉強してくれる?」
江角君たら、面倒くさそうにゆっくりと向きなおり、広げた私のノートを覗き込むと直ぐに式の間違ったところを見つけ出して教えてくれた。
兄みたいに厳しいのかなと思っていると、意外に優しく分かりやすく教えてくれる。
あれ?この感覚、前にも似たような感じで勉強を教えてもらったことを思い出した。
そう。
それはニュージーランドに旅立った美樹さん。
江角君の言葉が、美樹さんの言葉のように聞こえて、どんどん脳が吸収していくように感じた。





