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ハンター坂⑨

 あっ。

 お母さん、それに学校にも連絡しなきゃ。

 そう思って携帯電話が気になったとき、女医さんがクスッと笑った。

「お母さんには、私から連絡しておきましたよ。学校には屹度お母さんが電話しているでしょ」

「ありがとうございます」

 お礼を言ったものの、なんでこの女医さんがパートに出ているお母さんの携帯電話番号を知っているのだろう、と不思議に思った。

 だって、私の携帯は少し複雑な認証パスワードを入れているから他人では絶対に開けないはずだから。

 江角君だって無理。

 だいいち、江角君は本人の了解なしに人の物を盗み見たりする人じゃない。

 お財布には、治療を受けるのに必要な保険証が入っているけど、保険証からお母さんの電話番号とか分かる仕組みがあるのかしら?

 そんなことを考えていて、ふと目の前の視線が気になると、私を興味深く見つめている目とぶつかり慌てて俯く。

 女医さんは、またクスッと笑い「五時ごろ迎えに来て下さるそうよ」と言うと白衣の裾をひるがえし颯爽と部屋を出て行った。

 女医さんが部屋から出て行くと再び江角君と二人っきり。

 何を話していいのか戸惑っている空間には時計の音が深く入り込んでくる。

 そう言えば、今何時だろう?

 時計の音はするけれど、音の源であるはずの本体が見当たらない。

「十一時五十分」

「えっ?」

「もう直ぐお昼。時間気にしていたんだろ?」

「うん。まあ」

 曖昧な返事をしたのと同時にお腹がグーとなった。

 江角君がさっきの女医さんと同じ顔をしてクスッと笑った気がした。

「学校の昼食時間にはまだ早いけれど、昼食にするか」

 そう言うと自分の鞄からお弁当箱を取り出したので、私も鞄からお弁当箱を取り出して江角君の座っている窓側のベッドの端に座り直す。

 秋の日差しが暖かく私たちを包み、風がひらひらとカーテンを揺らし花の香りを運んでくる。

 なんとなく自然豊かな場所に建てられたサナトリウム(結核などの長期的な療養を要する人たちのための診療所)に入院している患者と、面会に来た彼氏みたい。

 そこまで考えたとき、急に顔が赤くなったので俯くと、それを私が喉に食べ物を詰まらせたのかと勘違いした江角君が、自分の水筒からお茶をくれた。

 私は、それを有難く、幸せな気持ちで口に含ませる。


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