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ハンター坂⑥

 どうやら私は、どこかのベッドで寝ているらしい。

 それにしても、カーテンを揺らして入って来る遠慮気味な風が頬を撫でて気持ちがいい。 

 ボーっとしながら辺りを見渡してみると、寝ている私の膝元で椅子に腰かけ、頬杖をついて俯き加減に本を読んでいる人物が居る。

 光を背にしているその男性は、起きたばかりで未だ光に馴染んでいない私の目にはシルエットとして映り、まるで少女漫画に出て来る憧れの男子生徒みたいだなと思った。

「ねぇイケメン君、貴方は私の王子様なの?」

 夢の中だと思い、王子様に手を伸ばす。

「あゆさわ」

 私の名前を呼ぶ王子様の声に、聞き覚えがある。

 この声。

「えすみく・ん?」

 名前を出して直ぐに飛び起きると、私の膝元で本を読んでいたのは、本物の江角君。

「やっと起きた。今先生呼んでくるから待ってろ」

 そう言って立ち上がろうとする江角君の腕を、咄嗟に持ってしまった。

 咄嗟に手を掴んでしまった大胆な行動に、自分自身が怯んでしまい暫く黙ってしまう。

 珍しく驚いたような顔をしている江角君は何も言わないまま私を見ている。

 急に恥ずかしさが込み上げ俯きながら、ここは何所なのか、どうしてここに居るのか、口から言葉を絞り出した。

 江角君はフ~っと溜息をついたあと、ここが病院である事と、電車を降りて通学路を歩いているときに私が倒れたからここに連れて来たと簡単に説明してくれた。

「先生呼んでくる」

 そう言って立とうとした江角君だけど、何故か私を見つめていて立とうとしない。

 どうしたんだろう?と不思議に思っていると「手、もう、いい?」と手の位置に視線を落とした。

 私も江角君の視線を追うと、江角君の動けない訳が分かった。

 それは私が江角君の手を握っているから。

「ごっ、ごめんなさい」

 慌てて手をほどき、シーツの中に引っ込め、ついでに真っ赤になった顔ごとシーツに包まる。

「じゃぁ、呼んでくるね」

 江角君の優しい声がシーツ越しに聞こえ、そのあと廊下を遠ざかって行く足音を恨めしく思いながら聞いていた。

 江角君が行って、シーツから顔を出すと、窓から入って来る秋の風が気持ちよかった。


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