ハンター坂④
「きのう隕石見た」
電車の中で里沙ちゃんに言うと「あれは火球だ」と江角君が教えてくれた。
「火球ってなに?」
里沙ちゃんは、それを見ていなかったらしく火球について江角君に聞いていた。
江角君はマイナス何等級以上とか説明してくれたけど、私も里沙ちゃんも物理とか理科系は苦手なので、よく分からないまま頷いていた。
お昼休みに里沙ちゃんが火球についてスマホで調べて、一生に一度見られたらラッキーなくらいとても珍しい事と、良いことの予兆だと教えてくれた。
良い事って何だろう?
考えてみると、ナカナカ良いことが思いつかない。
唯一思いついたのが、また江角君がレモン牛乳持ってきてくれないかな、と言う事くらい。
そう言えば、きのうもし火球を見ることが予め分かっていたとして、私は何をお願いしたのだろう?
こっちの方も、考えても何も思い浮かばなかった。
「ねえ、里沙だったら火球を見たとき、どんなお願いをする?」
里沙ちゃんは直ぐに「彼と結婚して可愛い赤ちゃんが授かりますように」と答え、その速さに驚いた。
部活のあとの帰り道にも、瑞希先輩たちに同じ質問を投げかけると「全国大会制覇」とか「彼氏が出来る事」とか「宮崎君の背が伸びる事」とか、答えが直ぐに帰って来て、逆に「鮎沢さんは?」と尋ね返されてしまった。
ここでも私は何も思いつかなくて、答えに困ってしまう。
瑞希先輩から、屹度満たされているから思い浮かばないのねと言われると、里沙ちゃんから「イケメンの江角に惚れられ、家では大好きなロンに完全介護を受けているから満たされ過ぎ」と、からかわれた。
でも、たしかにロンから受ける心のケアは最高だなと、納得してしまう。





