恋と音楽⑧
自分に言い聞かすような、どちらかと言うと、口からつい出てしまった感じの事言葉だった。
何故かその一言について、みんな引っかかるものがあって押し黙ってしまう。
言葉を投げた瑞希先輩は、高く上がったボールを見上げる男の子みたいに、楽しそうにまだ眩しさの残る夕方の青い空を見上げていた。
「流れ」
特に瑞希先輩の出した言葉について考える必要性はなかったはず。
それなのに今は、私も里沙ちゃんも、みんな流れについて考えていた。
一番深刻な表情で考えていた今川さんが、瑞希先輩の流れは何処から来るのかきく。
瑞希先輩は、音楽とだけ答えて満足そうに笑みを浮かべた。
「音楽?」
今川さんが不思議そうに聞き返すと、瑞希先輩が音楽は人の心を動かす。その音楽と人の流れだと答えた。
聞いていて確かに音楽の流れと私たちは深い関係があると思った。
確かに穏やかな曲を聴いていると、嫌な事も忘れてリラックスした気分になれる。
私がリラックスしたいときによく聞くのはバッハの管弦楽組曲第3番BWV1068「G線上のアリア」
音楽にあまり興味のない人でも、自然に音楽と行動が深く結びついている。
例えば、カバレフスキーの組曲「道化師」第2曲ギャロップは運動会のリレー競技の定番だし、ヘンデルの「マカベウスのユダ」を聴くと誰もがその運動会の成績発表を思い浮かべるはず。
そこまで考えて、急に瑞希先輩の“良い流れ”の意味が分かった気がして言葉に出した。
「ひょっとしてパッヘルベルのカノンですか?」
この曲は、今年の吹奏楽コンクールの自由曲として練習しているもの。
瑞希先輩は上げていた顔を私に向けてニッコリおどけた顔をした。





