ロンと、修学旅行⑫
体の力が抜けて床に座り込んでしまった。
あまりに突然の事で涙も出ないで唖然としていると、どこかの犬が隣で頬をペロペロ舐めて慰めてくれる。
「えっ……犬!?」
振り向くと、そこにはロンの顔。
お母さんと先生が俯いたのは、ロンを見ていただけなの?
「千春ちゃん、おはよう。びっくりさせちゃったみたいだね」
頭の天辺から、聞き覚えのある太い声。
見上げると、そこには茂山さんが優しそうに笑っていた。
「なんで……?」
茂山さんが、なんでここにいるのか分からなくて、言葉が口から出た。
「里沙 ちゃんから聞いたから」
「里沙から?」
「お見舞いに駆け付けられなくてゴメンって。それで代わりに僕が様子を見に来て、先生の奥さんとロンの散歩に行ってきたわけ」
「これ、どうぞ」
その先生の奥さんから渡されたのは、私の大好きなレモン牛乳。
でも、なんで?
「朝、江角君が千春さんにって、持ってきてくれましたよ」
レモン牛乳は栃木県ではコーヒー牛乳などと並んで販売されていて当たり前に買えるけど、ここ神奈川県では手に入るお店は極端に少なくて、私の知っているのは横浜のお店。
そこはでは初詣の帰りにみんなで寄った。
レモン牛乳は乳製品なので消費期限はそう長くない。
パックの製造年月日を見ると、おそらく今朝買って来てくれたものだろう昨日製造されたものだった。
里沙ちゃんの代わりに来てくれた茂山さん。
修学旅行の慌ただしい朝に、レモン牛乳を差し入れてくれた江角君。
深夜にもかかわらずロンのために手術してくれた先生夫妻に、私とロンを連れて行ってくれたお父さんにお母さん。
そして、みんなのおかげで私の横で何もなかったように元気な顔でいるロン。
急に昨夜から張り詰めていた気持ちの紐が緩んでしまい、涙が頬を伝った。
一滴の涙を落してしまうと、あとは止めどなく押し寄せるように涙が零れ落ちた。





