ロンと、修学旅行⑩
今迄、私の胸で気持ちよさそうに寝ていたはずのロンは、そこに居なくて布団だけが軽く捲れ上がる。
窓から挿す光は、夢と同じ霞色。
夢……?
そう、夢だったのだろう。
私の隣の布団には、ロンが昨日と同じ形で未だ寝ていた。
いくらロンが賢いと言っても、言葉なんか話せるはずもない。
そう思いながら、ふと枕元に置いてあった時計に目をやると、時計の針は四時十五分を指していた。
『なんだ、まだこんな時間か、起きるには早いかな……』
そう思ったあと、夢の中で見た時間から十五分だけ過ぎている時計の針に違和感を覚え、振り返って隣で寝ているロンを見ると、私の起きた気配に気が付いたのか目を開けて私を見ていた。
「本当だったの?」
思わずロンに話しかけたけれど、ロンは出術後で疲れているのか憂鬱そうに目を瞑るだけ。
「そんな訳ないよね……」
現実だったら、どんなにか嬉しかっただろう。
だって、ロンと言葉を交わす本当のお話しが出来たのですもの。
恨めしそうに隣の布団で目を瞑って寝ている愛しいその寝姿を見ていると、ロンは急に大きなあくびをして起き上がり私の布団に入って来る。
いつものように私の胸に頭を乗せようとしたロンの動きが一瞬止まり、私の目を見ていた。
『いいのよ、私もそうされるのが好き』
見つめ合っていたロンの目に、そう気持ちを送るとロンは分かったのか、ゆっくりと私の胸に頭を乗せフ~ッと安心した様に溜め息を漏らす。
私は、胸の上に乗ったロンの頭をそっと優しく撫でながら、さっき見た夢がもしも夢ではなくて現実だったとしても、さっきほど嬉しくて羨ましいとは思えなかった。
だって私とロンは、言葉が交わせなくてもチャンと気持ちのやり取りは出来るのだから。
寧ろ言葉よりも気持ちの会話のほうが、お互いの事を深く分かり合えるのではないかとさえ思う。
「初めての部屋で過ごすなんて、まるで修学旅行みたいだね!」
ロンにそう話し掛けると、興味がないのかあくびを返された。
窓から挿す光を見ながらロンの頭を撫で続けていた。





