ロンと、修学旅行⑦
病院に到着すると、先生と奥さんが直ぐに診察してくれレントゲンの結果、胃捻転である事が判明し緊急手術となった。
ロンには全身麻酔が欠けられ手術室に連れて行かれ、静かな夜の待合室で私たちは待った。
修学旅行の出発で明日朝が早い私に、お母さんが一旦家に帰るように言ってくれたけれど、私は頑なにそれを断ってロンが手術室から出て来るまで待った。
忙しい茂山さんのお店に長い時間放置していたのがいけなかった。
私たちを待っている間、人が大好きなロンの事だから屹度人気者だったに違いない。
その中には、おやつをあげた人も居たかもしれない。
なのに……それなのに、私は何も考えずに遅くなったからといって家までロンを連れて走って帰ってしまった。
胃捻転の原因は屹度私の不注意。
待合室には私たち家族三人しかいなくて、 時折通り過ぎる車の音の他は時間を刻む時計の音だけがやけに強く心に響く。
秒針の音は一回鳴るたびに私には一秒、そしてロンには四秒の時間が刻まれて行く。
私がポケットの中で握りしめていた携帯電話を取り出すと、横に居たお母さんがその手にそっと手を乗せて、よく考えるように優しく促す。
「ありがとう」
何度考え直してみても、どれだけ時間を掛けようとも、導き出される答えは一つしかない。
私が携帯電話を起動すると、お母さんは「待って!」と静かに止めて、自分のバックから携帯電話を取り出すと先生に電話を掛けてくれた。
理由は富山のお婆ちゃんが倒れた事にして、修学旅行を休むと言う話し。
スピーカー越しに聞こえてくる先生の声は、困った口調で「本人がどうしてもお見舞いを優先させたいのなら仕方ありませんなぁ……」と歯切れ悪く返していた。
お婆ちゃんには悪いけれど、私が電話をしたら正直にロンの事を言ってしまっただろうから、先生もこんなに素直には聞いてくれなかったと思うし、クラスのみんなも“たかが犬ぐらいで……”と陰口を言う人も出てくるだろう。
お母さんにお礼を言ったあと、里沙ちゃんと江角君には正直な理由を話した。
二人とも残念がってくれたうえで「しょうがないな。お大事にね」と、ロンの事を気遣ってくれた。





