ロンと、修学旅行②
結局、決められない私たちは瑞希先輩とマッサンに相談して経験談を参考することにした。
前年、沖縄コースに行ったマッサンは空港でF-15戦闘機の着陸を見て興奮した話や上空を低空飛行で飛ぶ米軍の軍用機が格好良かった話を興奮気味に身振り手振りで話してくれ、北海道コースに行った瑞希先輩は花盛りのラベンダー園の美しさと香り、見晴らしの良さや空気の綺麗さ、そして途中から参戦した田代先輩からは旭山動物園でのカルチャーショックとオプションツアーで行ったスリリングな渓流下りや自由行動の時に食べた本場の海の幸の美味しい話を聞いた。
聞いた相手が悪かったのだと思うけれど、この沖縄コースと北海道コースの体験談を聞く限り、私たちの触手が動いたのは当然北海道コース!
私たちが北海道コースに決めたとき、マッサンはキツネにつままれたような表情で「なんで?」と言ったのが可笑しかった。
里沙ちゃんが江角君に、どちらのコースに決めたのか聞くと江角君は北海道コースと答えて、その理由が自由行動の時に鶴岡部長と会う約束をしているとのことで、相変わらずクールな江角君に苦笑い。
コバ(最近、小林君の事を私たちはコバと呼ぶようになった)は、なんとマッサンの話を聞いて沖縄コースに決めたと言っていたのが私たちにはカルチャーショックだった。
日曜日に里沙ちゃんと修学旅行用のスーツケースなどを買いに行った帰りに、茂山さんのお店に行くと約束していた瑞希先輩と田代先輩がもう来ていて、店内に一歩入るなりマリーが私たちを見つけて派手に出迎えてくれた。
犬は本当に素直だと思う。
人の場合、躊躇われるような所でも犬はごく自然に、いつも通りの“好き”と言う表現ができる。
膝の上で甘えるマリーを撫でながら、犬の人間に対する深い愛情をしみじみ有難いと思い、いつの間にか家に残してきてしまったロンの事を考えていた。
今日はスーツケースを買ってかえるから、バスに乗って帰るからロンは連れて来なかった。
ロンはバスには乗せてもらえない。
でも……。
どうしてもロンと一緒に居たかったら、歩いて来て歩いて帰る選択肢もあったと思う。
その場合、当然帰り道は片方の手でロンのリードを持ち、もう片方の手でスーツケースを引っ張ることになる。
それが……たったホンノ少し面倒になるだけの帰り道のために、私はロンを連れて来なかった。
いつもはロンが面倒だなんて思ってもいなかったのに……。





