出発⑪
部室に入ると、既に里沙ちゃんがいて驚いて声を掛けると「彼氏に送ってもらうってメールしたよ」と言われ、鞄に仕舞ったままになっていた携帯を開くと、確かにメールが入っていた。
そこには『千春に言われた通り、彼と話し合って仲直りしたら、今日は車で送って行ってくれるって(^^)v』と、ラブラブなメッセージが書かれていた。
“夫婦喧嘩は犬も食わない”とは、まさにこの事。
やきもきして損しちゃった。
それよりも、里沙ちゃんの彼氏が江角君だと思って辛く当たってしてしまい後味が悪い。
そして、その江角君のほうを見ると“目が合った!”
一瞬“ドキンッ!”と心臓が強く脈打ったけど、江角君は直ぐに目を背けて知らんぷり。
屹度、怒っているんだろうなぁ~……。
まあ、私の早とちりだから仕方ない。
謝るしかないか……でも、どう言うの?
『里沙ちゃんの彼氏だと勘違いして、辛くあたってしまいました。ごめんなさい?』
これだと、どうして里沙ちゃんの彼氏だとイケナイのか変に思われる。
『私に告白しておいて、里沙ちゃんとフタマタかけていると勘違いしました。ごめんなさい?』
これだと、告白を受け入れている形になるし、告白の有効期限はもうとっくに切れているかも知れない。
『里沙ちゃんが……』う~ん、この際里沙ちゃんは出さないほうが良さそうに思う。
たとえば『寝起きが悪くて、八つ当たりしてごめんなさい』……でも寝起きが悪いのを他人に八つ当たりするかな……?
色々考えてみたものの、ナカナカ良い謝り方は考えつかなくて困っていると不意に通り過ぎざまに誰かから肩をポンと叩かれた。
振り向くと、江角君が通り過ぎ際に「立木、来ていて良かったな」と里沙ちゃんの事を言って向こうに行った。
まだ怒っているのか私のほうに顔を向けなかったけれど、私は自然に「ありがとう!」と言え、その返事に江角君は指二本で敬礼するような仕草を見せてくれた。
えへっ!なんとなく仲直り出来ちゃったみたい。
ホッとした私は思わず頬を綻ばしていると、瑞希先輩がやって来て「良かったね!」と声を掛けてくれたので、正直に「ハイ!」と言ってしまった。
瑞希先輩はクスッと私に微笑んでくれてから、正面の黒板の前に立ち、それを見て皆が一斉に練習の手を止めて注目した。
「さあ!今日から全学年揃ったから、このメンバーで全国大会いくわよー!」
大きく快活な声で部員全員に言った声に、私たちもありったけの元気な声で「ハイ!」と答えた。





