出発⑤
三月も終わり、桜の花が咲き始めた四月を迎える。
新学期の始まり。
今年はクラス分けで里沙ちゃんと江角君とも離れてしまった。
折角修学旅行のある年なのに凄く残念……。
そして今日は体育館の二階にあるステージに居る。
今日ここで新入生の入学式が行われる。
去年の私がそうだったように、吹奏楽部の演奏で晴れ晴れとした気持ちでこの入学を喜んでもらいたいと思った。
音楽に合わせて新入生が入場する。
席に着いた何人かが私たちのほうに振り向く。
今年は去年と違い“全国大会銀賞”という実績がある。
おそらく今年吹奏楽部に入部してくる新入生たちの中には、全国制覇を夢見て我が校を選んだハイレベルな演奏技術を持った人たちも多いだろう。
中には、足立先輩たちのようにコンクールの入賞経験のある凄い人も居るかも知れない。
でも……私だって負けるわけにはいかない。
……先輩として負けられない……はず……。
でも負けたらどうしよう……新入生にお手本を見せられないと屹度、江角君に怒られるだろうし、私自身落ち込んでしまいそう……。
演奏が終わって式典が始まった時、階下に並ぶ新入生たちを見ながらそんなことを考えて、ひとりで心配していると、トロンボーンのスライド管が伸びてきて私の頭をコツンと叩いた。
「えっ!?」
二つ後ろの列に居る江角君を振り返ると
「まだ始まってもいないうちから妄想で心配すんなよ!」
と、スッカリ心を見透かされて驚いていると、少し離れたところにいる里沙ちゃんにも笑われた。
そう。
どんなに上手な人が入って来ても、私は……いや、私たちは負けない。
負けるわけがない。
だって、それは私や私たちが戦う相手ではなく、私たちの強い味方なのだから。
そう思うと、なんだかワクワクして新入生が退場するときの演奏が出来た。





