前へ㉚
足立先輩の家を出て家に戻るまで、これまでの事を思い出していた。
全国大会のメンバーが決まってから猛練習が始まり、休日なんて一切無しに練習して全国大会まで一気に駆け抜けたこと。
本大会で第一トロンボーンに抜擢された江角君は、とても一年生とは思えないくらい堂々としていたし、瑞希先輩も山下先輩もそして足立先輩の演奏も、私には同じ高校生には思えないほど繊細で心に響き圧倒されたし、他のメンバーも誰一人ミスをせずに日頃の練習の成果を出し切ったと思う。
もちろんメンバーに選ばれなかった里沙ちゃんや小林君たちも、メンバーと何一つ変わることなく練習し、そして搬送とか雑用も多く、メンバーに選ばれた人たちより大変で、私たちはその姿を目の当たりに見て、より頑張れた。
まさに吹奏楽部がひとつになった。
そして、そこまで組織をまとめ上げ、指揮を執った鶴岡部長は私にとっては雲の上の存在だった。
大会が終わった十一月。
ロンの検診の日に、偶然診察室で手伝いをしていた鶴岡部長に映画に誘われた。
前から観たいと思っていた映画だったけど、男子と二人っきりと言うのは気まずいと思っていると江角君も行くから女子もあと一人誘うように言われ、勘違いしてドキドキしてしまった私が馬鹿みたい。
結局私は里沙ちゃんを誘ったのだけど、なんで鶴岡先輩は同じ三年生の友達を誘わずに一年生の江角君を誘ったのだろう?
映画の帰り道、何故か今日特別陽気な江角君は里沙ちゃんにベッタリ。
フン!私に告白しておいて男子って、まるでロンと同じ。
この、気まぐれもの!
そんな風に思いながら少し前をお喋りしながら歩く二人をみていると、横に並んだ鶴岡部長が私に“好きだ”って呟いた。
『えっ!?嘘!いま“好きだ”って言われた??』
『いや“スキー板”それとも“すき家”の聞き間違い?』
でも、街中を歩いていて女の子の横でスキー板とすき家は普通呟かないよね。
たぶん……。
私の思考能力がフル回転で空回りしているのに、鶴岡部長はいつものまま。
「返事は良いよ。それだけ伝えておきたかっただけだから」
とだけ付け加えた。
人生二度目の告白と受け取っていいのだろうか??
それにしても、男子って“いきなり過ぎる!”





