前へ㉘
中間テストも終わり久しぶりの部活。
あの訪問のとき、足立先輩に部活動に来て欲しいとは言わなかった。
言わなくても、もう先輩と私の違いはなくなったから大丈夫。
そんな自信はあったのだけど、実際中間テストが終わって部活開始の初日を迎えると、その事を伝えていないことが不安で憂鬱に感じてしまいボーっと当てもなく窓の外に広がる景色を眺めていた。
“ペシッ!”
いきなり肩を叩かれて振り返ると、里沙ちゃんの元気な笑顔があった。
「屹度大丈夫だよ!」
えっ?っと思ってポカンとしていると
「千春だけなら何にも出来なかったかも知れないけれど、ロンとペアなら怖いものなし。だもん!」「そうでしょ!」
里沙ちゃんは“そうでしょ!”の部分だけ区切って、私にウィンクした。
『そう!私にはロンが居るし、里沙ちゃんや瑞希先輩、それに江角君やマダマダ沢山の仲間がいる。だから足立先輩の事も屹度大丈夫』
と、そのときはそう思って元気が出たけれど、部室が近づくに連れまた不安になって来る。
部室との距離が近くになるにつれ、歩くスピードが遅くなる私を江角君が「何のろのろと歩いてんだよ!」と背中を押し追い越してゆく。
日頃殆どスキンシップしてこないのに、屹度私を元気づけるためワザワザ背中を押してくれたのだと思う。
「ほら」と横に並んでいた里沙ちゃんからも言われてしまったそのとき。
部室のほうから聞こえてきたのは、澄んだ高い調べ。
風笛を奏でるオーボエの音。
『足立先輩……!』
体中の血液が急に沸騰した様にムクムクと元気が湧きだしてきた。
「さあ!行くわよ!」
私は里沙ちゃんの手を引っ張って走り出す。
「チョット、千春……」
戸惑っている里沙ちゃんを連れて江角君を追い越すと、江角君は一瞬驚いた顔を見せたあと笑って一緒に駆けだしてくれた。
「もう!何なのよ……あっ!あの曲……」
里沙ちゃんも漸く気が付いて「やったね!」と喜んでくれ一緒に走り出した。





