前へ㉖
兎に角、答えを出すことのできない犬たちは我慢する事しかできない。
答えは飼い主自身が導いてあげる必要があると思う。
これまでそうしてきたように、飼っているペットに合った最後の答えを。
本人に代わって。
その答えは、共に過ごしてきた飼い主にしか分からないはず。
でも、私には確かに見えた。
笑顔で旅立っていくミッキーの顔を……。
「うわ~っ」
足立先輩が汚れたベッドを覆うように突っ伏して泣き出した。
シーツから顔を覗かせたロンと目を見合わせ、屹度足立先輩とミッキーも私たちみたいに仲が良かったのだろうと思った。
机の横にはケースのフタが少し開いた状態のオーボエが置いてあった。
泣き続けている足立先輩に断りもなしに使うのは悪いと思ったけれど、私はケースを開いて組み立ててリードを咥えた。
息を吹き込むとき少し躊躇ったけれど、足立先輩が私を恨む理由も全て此処にあると思った。
どうなるかは分からないけれど、思い切って息を吹き込むと、私の好きなあのメロディーが流れ出た。
いつもはロンのために演奏しているけれど、今日は天国にいるミッキーのために演奏した。もちろん人の物を勝手に使って、怒られるのは覚悟の上。
でも、何かを変えるために吹かなければならないと思った。
演奏を終えたとき背にしていたドアが開き、足立先輩のお母さんが部屋に入って来た。
凛香の音と似ていたので、久しぶりに演奏したのかと思ったと言っていた。
その足立先輩は、まだベッドに蹲っていた。
ロンが俯せて見えない先輩の顔に近づいて行くと、先輩は何かロンに答えるように喋って、ゆっくりと起き上がった。
目にいっぱいの涙を溜めたままの足立先輩と目が合う。
その目を見て私は持っていたオーボエを差し出す。
差し出した手と掴もうとする先輩の手が触れ、足立先輩は触れた私の手から躊躇うように一瞬手を引いたあと私の手を包み込むようにして添えたまま、優しくオーボエを握りしめ私が手の力を抜くと、すーっと添えた手を撫でるようにしてそれを自分の手に取る。
そしてミッキーの誕生日に撮った写真に目をやった後、さっきまで泣き伏していたベッドに向かい楽器を構え深呼吸をする。
吐き出された音は、やはりさっき私が吹いていた音と同じ風笛の音色だった。
私の後ろで先輩のお母さんのすすり泣く音が聞こえてくる。





