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“癌で皮膚が爛れていた……”
さっき言っていた言葉を思い出す。
赤茶色のシミの周りにも、おそらく足立先輩の涙のものだろう白いシミも沢山ある。
「ミッキーは、ここで……」
思わず口に出してしまった言葉に、足立先輩が「そうよ、だったら何よ!」とツンとした声で返してきた。
「ミッキーは、大好きな足立先輩のベッドで、大好きな家族全員に見守られながら旅立つ事が出来たんですね……」
汚れたベッドを見ながら、家族に包まれて幸せにこの世を去るミッキーの笑顔が思い浮かんだ。
安楽死については色んな意見がある。
アメリカなどでは大型犬の安楽死は80%を超える。
それが日本の大型犬では20%前後と少ない。
命を無暗に人間が操作するのは許されない。
しかし動物の医療は私たちに比べてそれ程までに進んではいないし、高価な検査機材を導入できる病院なんて滅多にない。
血液検査などでは分かりにくい犬の癌。
でも、その進行速度は大型犬だと人間の4倍近い速さ。
辛い闘病生活に向き合えるほど犬は強くないのかも知れない。





