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 何も言えないで、ただドキドキしていた。

 あの時、私の何が良くて、足立先輩の何が悪かったなんて、本当にそんな事があったとしても思い出せない。兎に角、無我夢中のうちに終わっていたのだから。

 どう答えていいのか分からないけれど、何か答えるべきなのだろう。

『足立先輩も頑張ったじゃないですか』

『一所懸命練習しましたから』

『曲の選択が良かっただけです』

『……』

 駄目だ、全部嫌味に捉えられ兼ねない。

 私は目を閉じて深呼吸をしてみた。

 すると膝から暖かい熱が湧いてきて、それが全身に回り、そして自然に言葉が出た。

「私は、あの場所に来れなかったロンのために、ただ精一杯演奏しただけです」

 そう。

 勝とうとか、負けたくないとか、観客に受けようとか、そんな考えはなかった。

 あったのは、あの朝ロンと約束した『頑張って来る』と言う言葉。

 もちろん中学の後輩である宮崎君と今川さんの訪問も、私の演奏を聞いてくれる観客の人たちも嬉しかった。

 それでも、足立先輩と私の一番の違い、私の強さの秘密は屹度……いや、絶対にこの子。

 ロンに間違いない。

 ロンを愛する気持ち、ロンに愛されたいと言う気持ち、そして実際にロンに愛されて、それがどんな困難も乗り越える事ができてしまう私の力になっていると思う。

「そっか……、そうだね……」

 足立先輩が静かに諭すように頷いてくれた。

 こんな私の答えを分かってもらえるなんて思いもよらなかったので驚いていると、足立先輩は目に涙を浮かべて静かに微笑んでいた。

「わたしとあなたのちがい……」


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