前へ⑭
トレーから紅茶とお菓子をテーブルに移し、もう一つミルクを入れたプラスチック製のコップをテーブルに移そうとしたときに足立先輩の手から、それが落ちた。
「あら、折角ロンにあげるのに持って来た最後のミルクだったのに!」
足立先輩は、そう言うと落ちたコップを拾い上げ「よしよし」とロンの頭を撫で、モップを取って来ると言って奥に引っ込んでしまった。
床に零れたミルクを見てロンはまた私の顔を見上げる。
ミルクは沢山上げるとお腹を壊しやすいので、ご褒美代わりにたまに少量だけ与えるロンの大好物。
そのミルクが今、床に零れて水たまりのようになっている。
欲しそうなロンの顔を見ると、思わず甘やかせてあげたい気もしたが、他所の家に来て零れたものを勝手にペロペロ舐めているのを見られたら恥ずかしいし、そもそも躾が行き届いていないと疑われる。
“ヤンチャな犬だから”とか“甘えん坊だから”とか、全部犬のせいにしてしまうこと、それは殆どが飼い主の躾のせい。
『駄目よ!』
私はロンに、目でそう合図を送るとロンも、もうミルクの事は忘れたように私の足元に伏せをしたまま私と同じようにガーデニングの花を見ていた。
暫くすると、モップを持ってきた足立先輩がミルクの零れた床を拭き始めて「あら、こんな所におやつで食べた竹輪の欠片が残っている」と言って床に落ちていた竹輪を拾い揚げ掃除の終わったモップと一緒に、また家の中に入って行った。
足立先輩は、おやつで食べた竹輪欠片と言っていたけれど、落ちていた竹輪は綺麗に包丁で切られていた。
足立家では竹輪をおやつで食べるのに、わざわざ一口サイズに切るのだろうか?
私なんかは行儀が悪いから、竹輪をおやつ代わりに食べるときはいつも“丸かじり”なのに……。





