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前へ⑫

「犬、飼っているのですか?」

 どんな犬を飼っているのか興味があって、思わず口に出してしまうと急に足立先輩の表情は曇った。

「もういいわ」

 不意に言われた言葉の意味を掴み損ねて「はい?」と変な風に聞き返してしまう。

 席を立った足立先輩は私から目を外したまま

「もう、来なくていいよ。アンタが何度来ても、もう部活に出るつもりはないんだから」

 と言うと、先に出口までスタスタと歩き出してしまったので、私たちも慌てて後を追った。

 帰り道、ロンに足立先輩の飼っている犬って、どんな犬なのだろうね?と話しかけたけれど、ロンは振り向くだけで何も答えてはくれなかった。

 次の日の朝の散歩は、ロンが足立先輩の家の前をどうしても通ると引っ張るので恐々ロンの言う通りに従った。

 だって、来なくていいと言われたのにストーカーみたいに家の前をうろついていたら今度はもっと怒られそうだから。

 でもロンも私も今度は、足立先輩の家の庭を覗いたりせず、普通の散歩ルートとして駆け足で通り抜けるだけ。

 当然足立先輩に文句も言われなかったし、足立先輩自身出てきていないので私たちが通ったことも知らないだろう。

 放課後の部活には、予告通り足立先輩は来ていなかった。

 ロンは夜の散歩も足立先輩の家の前を通ると言い出したので、朝と同じように二人で駆け抜けた。

 その次の日も私たちは足立先輩の家の前を通り、そして足立先輩は部活動に顔を見せなかった。

 そうこうしている間に中間テスト前になり、部活動は休止。

 そしてその日も、学校から帰って直ぐロンと二人で散歩に出た。

 いつものようにロンは足立先輩の家を目指す。

 私はロンに引かれて駆けて行くだけ。

 ところが、その日は先輩の家の前には足立先輩が一人ポツンと立っていた。

顔をこっちに向けて両腕を張り出すように横に広げて手を腰に置くその姿勢は、遠く目に見ても私たちを待ち構えているとしか思えなかった。

「ど、どうする?引き返そうよ……ねぇロンたら……」


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