前へ⑩
通されたのは、さっき見ていたガーデニングの花に囲まれたテラス。
白いテーブルも椅子も、いつも使っているのか汚れがなく清潔そのもの。
足立先輩がその椅子に座り、まだ立っている私に
「毎日朝夕拭いているから安心しろ」
と、ぶっきらぼうに声を掛けたので、私は「失礼します」と断って腰を掛けた。
私が座ると、隣にいるロンも私と同じように足立先輩のほうを向いてお座りすると、足立先輩はその様子をジッと見ていた。
「あの。ロンが邪魔でしたら連れて帰り、後日改めて私一人でお伺いしますが」
声を掛けると足立先輩は「危害を加えないのなら居てもいい」と強張った声で応えた。
「それで、用件は?」
催促されて、今まで緊張して忘れていたことを思い出す。
「山下先輩から、足立先輩の様子を見に行って欲しいと言われて来ました」
正直に山下先輩から言われた内容をそのまま話すと足立先輩は、いぶかしげに「私の様子を、あなたに……?」と、私の顔を怪訝そうに覗き込んで言った。
「それを、真に受けてノコノコと犬を連れて偵察に来たと言うのか」
「て、偵察だなんて……」
口では否定したけれど、やっぱり偵察なのだろうと思った。
「でっ?」
足立先輩の短い問いかけの意味が分からず戸惑っていると、
「今日の私と合って、山下にどう説明する?」
「げっ、元気そうでした?」
自信なさげに言った私の答えが可笑しかったのか、足立先輩は「アホかお前は!」と言って急に笑い出し、何が可笑しくて笑っているのか分からないで戸惑っている私が可笑しいらしくて私の顔を見て更に笑う。
一通り笑ったあと、足立先輩が今日学校に行っている事と、山下先輩とは同じクラスだと言うことを教えてくれた。
「じゃあ、私は何の様子を見に……」
思わず呟いてしまった私の言葉が可笑しかったのか足立先輩はまた笑うので、私が「もういい加減笑わないでください」と困った表情でお願いすると、漸く笑うのを止めてくれた。
「どうせ瑞希が言い出したんだろうけど、大きな目的は君たちを私に合わせたかったのだろうよ!」
「私たちを……?」
ロンに顔を向けるとロンも私を見上げ、お互いに顔を見合わせる格好になり、それを見た足立先輩がまた笑ったので「もうっ!」と言って甘く睨んだ。





