前へ⑧
「あんた、家の前で何してるのよ!」
つかつかと歩み寄って来る足立先輩の怒っている表情が夕闇の中からハッキリ浮き上がってくる。
「あっ、いえ、さ・さんぽ……ロンと……」
「散歩ぉ!?」
足立先輩の目が、初めて私から離れてロンに移された。
「……い、犬……」
「ハイ!ロンって言います」
ロンを紹介するとき、今までのオドオドした態度が消えてしまい明るく元気に言えた。
「なっ、名前なんかどうでもいいけど……この犬ってとうけん?」
「とうけん?」
何を聞かれたのか全然わからなくて聞き返すと
「闘犬よ!喧嘩させるための犬なのか聞いてるの!」
苛立っている足立先輩には申し訳ないけれど、それでも何のことかよく分からないでいると、戦わすために尻尾を切ったのかと尻尾の無い理由を聞かれ、私は散歩中の事故で尻尾を無くしたことを話した。
尻尾の無い理由を聞いた足立先輩は、更に表情を強張らせ激しい剣幕で
・何故リードを確り手首に巻き付けておかなかったのか?
・大きな道路の傍が危険なことが分からなかったのか?
・そのとき、意識が犬から離れていたんじゃないのか?
・飼い主として、犬の命を預かっている自覚はちゃんとあるのか?
など、具体的に責め立てられ“飼い主失格!”と罵られた。
確かに、あの時の私は足立先輩の言う通りで弁解の余地もない。
落ち込んで俯き、ロンの本来尻尾があるはずのお尻に目を落す。
「遊び半分に犬を連れ回して、私の家の傍を歩き回らないで頂戴!」
足立先輩の言葉が終わらないうちに、俯いて目から涙を零しそうになっていた私に、ロンが立ち上がり私の胸に抱きついてくれていた。
私はロンに癒されるまま、ロンを抱くように支えて頭を撫でた。





