前へ⑥
「山下先輩……」
屋上に上がって来たのは、あの山下先輩だった。
何で山下先輩がここへ来るのか分からない。
確かに瑞希先輩は、部室を出るときに山下先輩に声を掛けていたけれど……。
私の驚いた顔を見て山下先輩は笑って言った「確かに」と。
その声を聴いて瑞希先輩までニッコリ笑う。
一体何?
意味の分からないのは本人である私だけ?
「鮎沢さんの演奏素晴らしかったわ。噂通りね」
山下先輩が褒めてくれたので一応会釈して返したけれど『噂通り』って?
「瑞希、さすがね。完全に打ちのめされたわよ。でも少しくらい手加減するものよ」
「すみません」
瑞希先輩と山下先輩は旧知の仲のように話をはじめ、これも私には理解不能。
だって昨日の反省会までズット話もしなかったし、だいいちコンサートという形はとっていたけれど実際瑞希先輩は『戦争』だと言っていたし、江角君が勝ったらどうするのかと聞いてきたときも『辞めてもらう』とまで言っていたのに。
二人の関係が分からなくなり、思い切って聞いてみると二人とも顔を見合わせたあとに「敵!」と言って笑い、更に意味が分からない。
「ところで……」
山下先輩が覗き込みように私を見て話を切り出した。





