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前へ③

 食事の時も勉強中もロンは私が嫌な気持ちを思い出さないように、優しく寄り添てくれていて、散歩の時でさえいつもより張り切って楽しませてくれていた。

 私は、そんなロンの気遣いに甘えっぱなしで、寝るときにはロンをベッドに呼んで一緒に横になった。

 ロンの大きくて茶色い瞳は、部屋の明かりを消したいまは黒く光り、私を映し出す。

 静かで落ち着いた瞳は、私の嫌なことを全部吸い取るように澄み切ったaqua。

 汚れた気持ちは、その湖の深みに落ちて行き、やがて浄化されて戻って来る。

 ロンだけが私に見せてくれる超能力。

 これだけは、たとえ里沙ちゃんにも瑞希先輩にも使わない。

 もっとも瑞希先輩にはマリーが居て、マリーはその能力を瑞希先輩にだけ使うのだろう。

「君たちは不思議だね」

 ロンに話しかけてみると、おぼろげな目で見られた。

 屹度ロンは私に気遣ってくれて、いつも以上に疲れたのだろう直ぐに目を閉じて寝息を立てだし、その顔を愛おしく思いながら私もいつの間にか夢の中へ吸い込まれていった。

 空を見上げれば緑色の葉っぱと白い花の向こうに微かに白い雲でお化粧をした高い空が見える。

 その景色を遮るようにロンの顔が覗き込み、ペロッと私の口を舐めて消えた。

 身を起こすと広い原っぱの真ん中でロンが悪戯っぽく私を眺めていて、今にも逃げようとして私を囃し立てている。

「よぉーし!負けないわよ!」

 体を起こした私は、そう言ってロンに近づこうとすると、けしかける様に一歩だけ私のほうに足を出してお尻を高く上げてから反対方向に走り出す。

 高原のお花畑を私たちは走りまわる。

 ロンは伸びた草に隠れそうになる所では、私が見失わないように必ず立ち止まって待っていて、そして必ず私の手が届きそうになるまでそこから離れない。

『待て!』と叫べばロンが立ち止まるのは分かっているけれど、今日は二人でいつまでも遊びたいので、そんな言葉は必要ない。

 本当に待たなければいけないときには私もロンも必ずお互いを待つ。

 何時間そうして遊んだだろう。

 高い空から急に強い冷たい風が吹き下ろしてきた。

 高台の上で私を待っているロンを空から降りて来た雲が覆い始める。

「ロン!?」

 何故か声を掛けてしまう。

 ロンが遠くに行きそうで……。

 ロンは真直ぐに私を見たまま。

 雲に覆われて見えなくなるロン。

「待て!」

 小さく口ずさんだあと涙と共に大きく叫んでいた。

「待って!待って!」

 ハッと目が覚めて、今までの事が夢だと分かる。

 目から涙が止めどなく溢れているのに、ロンときたら知らん顔して静かに寝ている。

 急に不安になってロンの耳を触ると、うるさいなぁ~とピョコンと動かした。

 ホッとした私はロンの頬に手を添えて、いつまでも愛おしく思いながら撫でていた。


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