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木管大戦争㉔

 私たちの後は、いよいよ山下先輩たちAグループの選抜メンバーが同じ曲を演奏する。

 違う曲なら、少しは余裕をもって聞くことも出来るけれど、全く同じ曲というのは、その良し悪しが直ぐに分かってしまうので、みんな緊張しながら始まるのを待っていた。

 個人戦を終えた印象では、私たちより確実にテクニックで優っている。

 ところが、曲が始まって直ぐに会場がざわつき始めた。

 特に音やリズムが合っていないという感じではないけれど……私たちの演奏したライヒャと同じ曲を演奏しているとは、とても思えなかった。

 独特のアレンジを入れている訳でもない。

 私の隣で、一緒にその様子を見ていた里沙ちゃんが振り向いて目が合ったとき「バラバラじゃん……」と言った。

 そう。その通り。

 Aグループの演奏は、各パートがバトンを受けそこないバラバラに旋律を追っている印象で、そこから出る音も滑らかな五重奏になっていないから、演奏をしない人たちでも日ごろ音楽を聴いている人なら直ぐに違和感として捉えてしまうだろう。

「空中分裂。いや自己崩壊だな」

 田代先輩が瑞希先輩に話している声が聞こえて来た。

「瑞希が立ち上がらなかったら、コンクール本番でこの膿が出たと思うとゾッとするねぇ」

「しっ!まだ演奏中よ」

 田代先輩の発言を瑞希先輩が、たしなめた。

 その声を聴いて、私も再び曲に集中する。

 すると、演奏も序盤を過ぎたあたりから少しずつ滑らかになりだしたように感じ、改めて耳を澄ましてみるとファゴットとサックスの繋がりがスムーズになって、中盤からはそれに加えてフルートとクラリネットも良くなってきて“演奏に厚みが出る”って、こういうことなのだと感じるまでになった。

 しかし曲が終わるまで、曲の輪の中にオーボエは加わることがなくて、ただでさえ木管楽器の中に合っては目立ちすぎる存在が出す違和感は、曲全体を押し潰していた。

 演奏が終わったときパラパラとしか拍手は起こらず、演奏中に席を立ったのだろう空席も目立っていて残酷すぎる結果に鳥肌が立った。

「私たちも失敗していれば、このような結果が待っていたのよ。観客なんて素人だと思っていたら大間違い」

 いつの間にか隣に来ていた瑞希先輩が私の横で囁くように言った言葉は、ここに居る五人全員の上に重くのしかかった。


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