木管大戦争㉒
白組で、同じオーボエの足立先輩は「情熱大陸」を演奏した。
私が中三の県大会で演奏した曲。
聞きながら、一年前のあの舞台を思い出そうとしたけれど、足立先輩の早くて正確な演奏に圧倒されてしまい思い出す暇もなく終わってしまい、これがコンクール入賞者の実力なのだと、技術的に足元にも及んでない自分の実力に落胆してしまう。
足立先輩の次は、いよいよ個人戦最後の組み合わせ。
フルートの瑞希先輩と、クラリネットの山下先輩の対戦。
私の聞いた限りでは瑞希先輩のフルートは、マッサンと対戦したコンクール入賞経験のある大泉先輩よりも上手いと思う。
楽器は違うけれど、同じコンクール入賞経験のある山下先輩と、どっちがより素晴らしい演奏を聞かせてくれるのか楽しみな一戦だった。
瑞希先輩の演奏する「ハナミズキ」は、これがアメリカで起きた大きなテロ事件で、消防士として現場で亡くなった恋人を想うメールから元に作られたと言う噂が納得できる。
そしてフルートから奏でられるその音の音は、まさにフルートを通して詩を口ずさみ、演奏の途中から会場で鼻をすする音も聞こえていて、演奏が終わった時は、まるでプロのコンサート会場のような拍手に包まれていた。
対して山下先輩はフォーレの「シチリアーナ」を持ってきた。
こちらも三年生Aグループのリーダーとして木管楽器を仕切っているだけのことはあると、納得させる内容だけに会場は音楽の波に押しつぶされたように静まり返り、曲が終わった時に漸く息を吹き返すように拍手が起こった。
これで紅白五人ずつの個人戦が終わり、小休憩を挟んで木管五重奏での対戦になる。
緊張の続くコンサートの合間に出来た、ホンノひと時だったけれど私たちはお互いの顔を見合わせ、健闘を称え合い、そして笑っていた。





