表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/820

木管大戦争㉑

 頬を伝う涙が先なのか、観客の拍手が先なのか分からなかった。

 でも、いつの間にか瞼から零れ落ちた涙の一滴は頬を伝っていた。

 お辞儀をするために俯いた時、その涙の滴が床に零れ落ち床に小さな玉となって光る。

 その小さな玉をよくみると、お辞儀をしている私や舞台の袖で見守ってくれていた仲間と伴奏してくれた鶴岡部長、そして拍手してくれている人たち……よく見ると、その中には笑顔で真直ぐに私を見ているロンも居た。

 驚いて慌てて顔を上げてロンの居たほうを探したけれどロンは居なかった。

 当たり前と言えば当たり前。

 もしも誰かがロンを連れて来たとしても、講堂になんて入れるはずもない。

 拍手してくれている人たちの一人一人に感謝したい。

 そして伝えたい。

 私の演奏を支えてくれているものが誰なのかを……そして、その最も聞いてもらいたいロンがいつも此処に居ないことを。

 再び頭を下げ、お辞儀をした。

 まだ残っていた涙の滴を見ると、この講堂という空間に居るもの全てが、この小さな球体に収まっていたけれど、もうそこにロンの姿は見つけられなかった。

 スカートのポケットからハンカチを取り出し、床に零れた涙を優しくすくう。一瞬でもロンを映し出してくれた涙の粒を愛おしく思ったし、誰にも踏まれたくなかった。

 舞台の袖に隠れるときに鶴岡部長と目が合った。

 鶴岡部長の目は、いつになく優しく、そして拍手で見送ってくれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ