木管大戦争⑯
河原が近づいてくると、どこからか蒸気機関車の音が聞こえた気がした。
でも近くを走る小田急線を蒸気機関車が走るのなら凄いニュースになるはずなのに、そんな話は聞いたことがない。
やがて蒸気機関車の音が聞こえなくなったと思うと、今度は増岡先輩と小林君の笑い声が聞こえて来た。なんとなく、あの二人は同級生っぽく見えて仲が良いし増岡先輩も親しみ易すいキャラだから“先輩”と呼ぶには抵抗感さえ覚える。里沙ちゃんなんか既に「マッサン」と気安く読んでいるくらいだし。
増岡先輩と小林君は私たちに直ぐに気が付いてくれて、大きく手を振ってくれた。
傍には見慣れた車に、パラソル、そしてマリーのリードを持つ茂山さん。マリーも私たちに気が付くと大きく尻尾を振って歓迎してくれた。
皆がそろったので本格的に練習を始めることにしたときに田代先輩が楽器を持ってきていないことに気が付いた。メンバーではないので私のを使って貰おうと思って差し出そうとすると、瑞希先輩から止められて田代先輩は見学と言うことになった。
次の日も田代先輩は楽器を持たずにやって来て言った。
「私はメンバーから降りる」と。
みんなが驚く中、ひとり平然としている瑞希先輩が田代先輩に礼を言ってから説明を始めた。
田代先輩が元々メンバーの予定に入っていなかったことを。
みんな驚いたなかで、二年生の増岡先輩が代表するように言ってくれた。二年生で一番上手いオーボエの担当者が代表に入らないのは勝負を諦めたのかと。
瑞希先輩は大分困った顔をして田代先輩のほうに振り向くと、田代先輩は分かったような合図をしてから堂々とした態度で言った。
「マス!(増岡先輩の事)お前まだ気が付かないのか!?」
突然名指しで言われた増岡先輩はポケっとしている。
「私よりも、いや、三年生の足立先輩より上手い人が傍に居るだろ!」
その言葉を合図に、みんなが一斉に私を見る。
威圧感に顔が真っ赤になり、ドギマギして後ずさりしてしまいそうになる私を里沙ちゃんが支えてくれた。
「千春さん。我儘言って申し訳ないのですけれど、吹奏楽部に戻って来てくれません?」
瑞希先輩がそう言うと、増岡先輩も小林君も一緒にやろう!と言ってくれ、田代先輩にもオレにこんなことを言わせて逃げるなよな!と手を挿し伸ばされた。
私の後ろで肩を支えてくれている里沙ちゃんが耳元で、千春と一緒じゃなきゃ詰まらない。と言って後ろから私をギュッと抱きしめてから背中を押してくれた。
押された私は輪の中央に進み、瑞希先輩の目の前で驚いたままの表情で答えた
「分かりました。吹奏楽部に戻ります」と
その言葉を聞いてくれたみんなが、一斉に拍手をしてくれた。





