表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/820

木管大戦争⑮

里沙ちゃんから“戦争”の日が来週土曜日のオープンスクールになったことが知らさされる。

そして今週の土曜日曜に行われる河原での練習にも来て欲しいと。

オーボエの担当が田代先輩に決まったのだから、もう私が出て一緒に練習することはない。

代役の私は、その役目を終えたのだ。

里沙ちゃんには用事があるので行けたら行くと、あやふやな返事を返してしまい心が痛む。

……だって嘘なんだもの。

みんなと一緒に練習したい。

でも、それをしたらどう思われるだろう?

増岡先輩や中村君は、いつものように笑って迎えてくれるだろうか?

担当に決まった田代先輩は嫌な気持ちになりはしないか。

誘ってくれた里沙ちゃんに迷惑が掛からないだろうか……。

だいたい瑞希先輩は何を思って私を練習に誘ったのだろう?

決して悪い人ではない。……鶴岡部長がフルートの演奏者を探していると聞いて、喜び勇んでその話を伝えたとき、復帰の条件に私に部活を辞める事を言い出すし、今度はその私を練習に誘うものだから、私はスッカリ忘れかけていたみんなで練習する楽しさを思い出してしまって代役と割り切っていたのに担当者が決まった途端、こんな絶望感を味わうことになってしまうし……。

瑞希先輩は私にとって、まるで小悪魔。

そう。森に住む横笛を操る不思議な妖精の音色に私は翻弄されている。

本番前の最後の土曜日。

結局里沙ちゃんから誘われたものの、全く気持ちの乗らなかった私は携帯電話を家に残したままロンを連れて河原とは反対方向に散歩に出た。

久し振りに長い時間散歩して時間を潰すつもりだったのに、何故かロンも私も乗り気ではなく、ロンなんて何度も何度も曲道が来るたびに家のほうへ戻ろうとするものだから、結局時間も潰せなくて家に戻る事になった。

そして家の見える道まで戻った時、里沙ちゃんと瑞希先輩ともう一人の三人が私に手を振っているのが見えた。

「えっ!」

 戸惑い歩を止めようとした私を、マリーか、はたまた女子三人に目が眩んだのかロンが強引に引っ張り、駆け寄る羽目になってしまう。

「迷っているんじゃないかと思って迎えに来たよ!」

 三人が一斉に、そう声を掛けてくれた。

 私は、私にしては珍しくツンと澄まして

「迷ってなんかいません。ロンが出たがるので散歩に連れ出していただけです」

 と応え、用意が済むまで待つから一緒に行こうと誘ってもらった。

「待ってもらう必要なんてありません」

 そう言った私の言葉に、三人が一瞬躊躇った。

「用意は出来ていますから」

 実際に玄関前にはオーボエを入れたケースを用意していた。

 私はロンと一緒に逃げ出そうとしたのに、結局ロンに連れられて私の一番やりたかった道を進むことになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ