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木管大戦争⑩

「ふぅ~ん……」

 次の日、里沙ちゃんが電話で最新情報だと教えてくれたことは、Aグループには山下先輩意外にもコンクールで受賞経験のある人が二人いたこと。

 一人はフルート担当の大泉先輩。

 そしてもう一人はオーボエ担当の足立先輩。

 瑞希先輩は“絶対勝つ”と言っていたけれど、仮に団体戦の木管五重奏で勝ったとしても、個人戦では勝ち目がないと嘆いていた。

「どうして……?」

 何となく、そんなに嘆くこともないのではと思って聞くと、元々人数の少ないファゴットは三年生と二年生との差が歴然らしくて、サックスは二年生の上手い人ふたりが丁度この春に軽音楽部に出て行ったばかりだと言う。

 だから瑞希先輩が大泉先輩に勝ったとしても、あとの四人が続かない。

 聴いていて、さすがにこれは厳しそうだなと私も感じた。

 その翌日の夕方遅く、私が丁度ロンの散歩を終えて体を拭いてあげているところに学校帰りの里沙ちゃんが、まるで飛び込むようにやって来た。

 驚いた私とは対照的に、この不意打ちにもロンは驚きもせず、里沙ちゃんに甘えている。

 耳が良いから屹度ズット前から、里沙ちゃんの自転車の音が聞こえていたのかな?

 里沙ちゃんは鞄から一枚のメモを取りだして、それを見せてくれた。

メモには楽器と人の名前が書かれてある。

“クラリネット=増岡徹”

“ファゴット=小林裕一”

 女子だけの五重奏になると勝手に決めつけていた里沙ちゃんも私も増岡徹と小林裕一という男子の名前に驚かされた。

 里沙ちゃんが瑞希先輩から聞いた話によると、今のところメンバーは、この男子二人と自分だけ決まったと言うことで、サックスとオーボエは未だ決まらない。

 そして今度の土日に、この男子二人を連れて河原に練習に行っても良いか?と瑞希先輩が伝えて欲しいと言っていたこと。

 もちろん公共の河川敷なので私には断る権利もなく且つ理由もない。

 寧ろ楽しみにしたいくらいだったので

「Welcomeよ!」

 って、ニッコリ笑って答えたそのあとで、

「ねえ、ねえ。ところでこの男子二人って、どんな人?」

 吹奏楽部に在籍した日数があまりにも短くて先輩の名前と顔はおろか、同じ同級生部員すら殆ど分からないまま退部したので、増岡徹と小林裕一という人物に全く心当たりがなかくて聞いたのだけど、里沙ちゃんもクラリネットの増岡徹が二年生で、ファゴットの小林裕一が一年生と言う事以外知らなかった。

「一体、どんな人なんだろう?」

 ふたりで同時に同じ言葉を言い、二人同時にお互いの顔を見合わせて、二人同時に噴き出して笑うと、私たちの前に居たロンが跳ねるようにジャンプしながら私たちに合わせるように吠えた。

 その姿を見て、里沙ちゃんも私もまた笑う。

 空の色は、紫色のから濃い群青色に変わろうとしていた。


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