木管大戦争⑦
開けたドアから見えた顔は瑞希先輩だった。
「こんばんは」
久しぶりに見る懐かしい笑顔に、思わず抱き着いて泣き出してしまいそうな気持を堪えて中に入ってもらう。
既に先客が居ることは、表に停めてある自転車で分かっていたらしく里沙ちゃんと江角君に優しく挨拶を交わし、みんなと同じようにその場に腰を降ろした。
狭い玄関がぎゅうぎゅうになったのを良いことに、ロンったら瑞希先輩にベッタリくっ付いて頭をナデナデしてもらい嬉しそうに先輩を見上げていて、その姿を見て見ぬふりをしながら
『今度マリーに合ったら浮気したこと、バラしちゃうぞ!』
て思っちゃう私は、いつものように焼きもちを焼いている。
三人目のお客さんが来たので、さすがに玄関が手狭になっただろうと思ったお母さんが居間を開けてくれ、みんなでそこに入った。(さすがに江角君が居る手前、私の部屋には通しにくいのを察してくれたお母さんに感謝、感謝!)
部屋には既にお菓子とジュース、それにコップも四人分用意されていた。
部屋に入るとき瑞希先輩が私の耳元で、私だけに聞こえるような小さな声で囁く。
「付き合っているの?」と。
私はビックリしながらも平静を装い「違いますよぉ」と余裕の笑みを浮かべたつもりで答えたけれど、どんどん焼けるように熱くなってきてしまう顔はどうしようもなくて、部屋には入らずに慌ててロンのおやつを取りに行くと言って洗面所に向かった。
洗面所の鏡に写し出された顔は、やはり赤かったので顔を洗って冷やす。
『もー!瑞希先輩の意地悪!』
洗った顔を拭いて、顔を上げたときに鏡に向かい、そう呟いた。
呟いてみると、また顔が赤くなってきたのでもう一度顔を洗い、今度は何も考えないように鏡を覗く。
そこには未だ動揺している私を見透かしているような、澄ました顔の私が私を見ていた。
私は、その私から逃げるように洗濯機の横の扉から、ロンのおやつを取ると鏡から逃げるように洗面所を後にした。





