木管大戦争⑤
それから一週間のちの夕食後、我が家に二人の来訪者があった。
一人は里沙ちゃん。
そして、もう一人は江角君。
一緒に連れ立って来たのかと思ったら、家の傍でバッタリ会ったのだと言う。
なんのために来たのか知らないけれど、これは余程の用件に違いない。
玄関先の私の横にお座りしているロンも何か察したらしく、いつも里沙ちゃんの前で見せるデレデレした態度ではなくて緊張した様子だった。
ふたりが話してくれた内容は、今日起きた事件の事。
音楽室で行われたボレロの第一回目の合同練習が事件の発端になる。
まず演奏終了後に木管チームの不備が指摘され、鶴岡部長は細かい内容には触れなかったものの、顧問の先生からは編成を考える必要がある旨要求された。
合同練習が終わったあと木管チームは視聴覚教室に集まり、山下リーダーが一、二年生に対して練習不足を指摘し激しく罵声を浴びせた。
今迄ほったらかしにしていながら余りに酷い言い草だったので、里沙ちゃんが腹を立てて言い返そうとしたとき瑞希先輩がそれを制するように
“先生は練習不足を指摘したのではなく、編成を考える必要があると言った”
と発言したものだから、山下リーダーはムキになって
“それは主旋律のメンバーを代えろと言っているのか!”
と怒鳴った。
それでも瑞希先輩は怯まず冷静に
“編成について言われたと言うことは、原因が主旋律側にあるのは明白だと思います”
と堂々とした態度で言ってのけると、BチームCチームに居る二、三年生たちからも同意する意見や、今迄たまっていた不満が吐き出されて教室内は騒然としてしまう。
“あんたたちに私たちの代わりが出来るって言うの!”
山下リーダーが言った一言で、ざわついていた教室が一瞬静かになった時、瑞希先輩が
“代わりは居ます”
と答えて、今度は静かな騒めきが教室中に広まり
“受けて立とうじゃないの!その挑戦”
と山下リーダーがヒステリックに大声を上げて教室を出て行った。
後からAグループから送られてきた楽譜はアントン・ライヒャの木管五重奏曲ホ短調op,88-1 1stで、楽器構成はクラリネット、オーボエ、ファゴット、サックス、フルートだ。
そして楽譜の隅に“個人戦の課題曲は自由”と書いてあった。





