河原の練習場⑨
慌ててロンを追う。
「マテ!」と叫んだけど聞いてくれない。
言う事を聞かないロンなんて珍しい。
『いったい何?』
答えは直ぐに分かった。
茂山さんの連れている真っ白な犬に飛び乗るようにジャンプしたロン。
そのロンを迎えるように更にジャンプする白いスピッツ犬マリー。
じゃれ合う二人を見ていてホッとする。
「あれ!美月先輩は?」
「千春も茂山さんもお人好しなんだよなぁ~」
美月先輩は今日、河原に行けないからマリーだけでもロンと合わせてあげたいと茂山さんに頼んだのだそうだ。
「えっ!でも私、河原で里沙と練習するのを瑞希先輩に伝えていないよ」
里沙ちゃんはエヘンと胸を張って、どうせ千春の事だから私の事なんかも考えて伝えられないだろうなと思って、私が伝えたと話した。
「里沙……」
てっきり怒ってばかりいると思っていた里沙ちゃんが、そんなことを言ってくれるなんて嬉しくて見つめていると「私も、お人好し病がうつったのかな?」って笑った。
結局里沙ちゃんが伝えてくれたけど瑞希先輩は来なくて、その代りにマリーが茂山さんに託されてロンと遊んでいる。
楽しそうに遊んでいる二人を見ながら私は里沙ちゃんと部活で練習している曲を一緒に練習した。
新しい曲を里沙ちゃんはまだ指が慣れていないのか上手に押さえきれていなくて、リズムが狂ったり音程を外したりしていて、里沙ちゃんはそれを瑞希先輩のせいだと言って笑っていた。
私は少し思うところがあって、里沙ちゃんに昔一緒に練習していた草笛を一人で演奏してもらった。
私の思っていたことは当たっていた。
短期間だけど里沙ちゃんのサックスの音色は確実に好い方向に変わっている。おそらく本人は気が付いていないだろう。
里沙ちゃんに自分の音は好きか聞いてみると、予想通り最近良い音が出るようになったと返事が返ってきた。





