河原の練習場⑤
『僕は、僕自身が楽器を演奏するよりも大きな可能性に賭けてみることに決めた』
ロンの定期健診に行った日に鶴岡部長が言った言葉が頭を流れていく。
そしてその日に聞いた、もう一つの言葉。
『フルートの演奏者を探している』
……そう、ボレロと言えば小太鼓のリズムから始まった後に第一フルートの独奏で続く。
あの河原で里沙ちゃんや江角君、それに伊藤君と瑞希先輩、そして私の五人でボレロを演奏した時に同じ言葉を思い出していた事に気が付いた。
鶴岡部長は知っていたのだ。
瑞希先輩の音を。
我が校の吹奏楽部にある楽器で、このボレロを演奏するとしたら、
フルート
↓
クラリネット
↓
ファゴット
↓
小クラリネット
↓
オーボエ
の各独奏で始まり
フルートとトランペットのペアの後は
↓
テナーサックス
↓
ソプラノサックス
と、また独奏が続く。
ソロパートはミスが許されないし度胸も要る。
特に一番初めに演奏するフルートとなれば、なおさらだ。
鶴岡部長が何故“ひとり”に拘っていたのかは、これで分かったけれどボレロには特に難しいと言われる楽器が幾つかある。その中のひとつに曲が始まって十分以上の間、一切演奏に参加していないところから高音域で独奏を始めるトロンボーンがある。トロンボーンと言えば、いま目の前にいる江角君の担当だ。
一瞬、何故か江角君の顔を鋭く見てしまうと、江角君は私の視線から逃げるように上げていた顔を譜面に落とした。





