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河原の練習場④

 水曜日の夜に江角君が譜面を届けに来てくれた。

部活で練習を始める新しい曲。

 そして、青葉台吹奏楽部が全国大会に向けて自由曲に選んだものだ。

江角君はワザワザその譜面のコピーを仰々しく大判の封筒に入れて持ってきた。しかも封を止めるためにボタンに紐を巻き付ける先生が使うような仰々しいタイプ。

 玄関で江角君がその紐を外す間、早く中身が見たくてドキドキしていた。

封筒から取り出されるときには、映画やアニメなどで宝物のフタが開けられた時のようにその白いコピー用紙が更に白く光って見えた。

 紐止めを上にして開けられた譜面は裏側を向いていて真っ白で、用紙の裏側に書かれていく譜面が薄く見える。

「触っていい?」

 江角君が裏返しの譜面を表に返す前に言った。

 自分で確かめたい。

 この曲が鶴岡部長の勝負曲。

 鶴岡部長から演奏を奪った曲。

 私から演奏を奪おうとした曲。

 そして私と瑞希先輩を引き裂こうとしている曲。

 震える手で用紙を表紙側に向けると、そこに作者名と曲名が書かれてあった。

“Joseph Maurice Ravel / Bolero”

 作者名が私の知らなかったフルネームで書かれていた。

「ラベルのボレロ……」

 思わず口から滑り出た言葉。

「そう。ボレロだ」

 私の声に江角君が返した言葉は、いつもの平坦で感情を伝えない声ではなく、どこか緊張しているような声に聞こえた。

「ボレロ……」

 江角君の声を受けて、もう一度呟いた。


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