河原の練習場①
夜に里沙ちゃんからメールが来て、瑞希先輩が吹奏楽部に復帰したことを伝えてくれた。いつもなら電話で話すのに、今日はメール……。そして、そのメールの内容も瑞希先輩の事に関しては“百瀬瑞希復帰”としか書かれていなくて、里沙ちゃんが復帰の条件に私の退部を持ち出してきた瑞希先輩への憤りが伝わってくる。私が瑞希先輩を悪く思わないようにお願いしているから、この文章を送るまでに何度も何度もメールを打ち直したのに違いない。そして最終的に里沙ちゃんの感情を抑えた結果が、この“百瀬瑞希復帰”だったのだろう。
私の我儘で里沙ちゃんに迷惑を掛けていると思ったし、瑞希先輩にも迷惑を掛けてしまったと思った。
瑞希先輩は、これまで通りのお付き合いがしたいと言ってくれたけど、里沙ちゃんは納得しないだろうし、もし仮に里沙ちゃんが我慢したとしても私も瑞希先輩自身もギクシャクしてしまい屹度元の通りには行かない。
私が鶴岡部長の探しているフルート奏者に拘らなければ、三人で仲良く、いや私達三人とロンとマリーも仲良く過ごせたはずなのに……そう思いながらロンを見つめると、ロンは何故か寂しそうな素振りも見せないでヒョコっと起き上がり、私の傍まで楽しそうに来るので私も椅子から腰を外してロンの視線まで降りて迎えてあげた。
ロンは甘えてきて私の肩に前足を乗せ、顔を舐めてきてそのまま押し倒された。
小学、中学の時は何度もこんなことがあったけれど、高校では新しい制服を見せびらかした時以来だな と思うと未だ高校生になって一か月も経っていないのに妙に懐かしく感じた。
いつものように私の胸の上に馬乗りになるロンが顔を舐める。
でも、その舐め方はどこかしら手加減が加えられていて、いつものように息ができないほどの激しさがない。屹度ロンも寂しいのに違いない。それなのに私を励まそうと明るく振る舞っているのだと思うと健気なロンが可哀そうに思えて涙が出てきた。
ロンはいつもそうするように、私の涙を舐め取ってくれていた。





