Uターン⑨
部活のない平日。午後五時に家に着き玄関を開けるとロンがお出迎えしてくれていた。
お母さんは買い物に出ているらしくて自転車がなかった。
ロンが癒すように優しくしてくれるのが凍り付いていた私の心を一気に溶かし涙が止めどなく流れ、その涙をロンは全て優しく舐め取ってくれた。暫く玄関から動けなかったけど、その間ズット私に付き添ってくれているロン。漸く動けるようになり洗面所で手と顔を洗い歯磨きをして二階に上がりベッドに身を投げる。その間一時もロンが私の傍から離れることはなかった。ベッドからロンに手招きをするとピョンと布団の上に登り私の懐に潜り込み神妙にしているロンを見ていると、なんだか可哀そうな気持ちになる。屹度ロンは私の悲しい気持ちを少しでも分かち合おうとしてくれているに違いないのだ。
そう思うと、急に確りしなくてはと頑張る気持ちが出てきてベッドから飛び起きて机に向かった。部活で遅れがちになっている予習復習をこの空いた時間に頑張ろうと我武者羅に勉強した。
夕食が済んで二階に上がり、勉強の続きを始めた頃に玄関のチャイムが鳴りお母さんが対応しに行くのが分かった。いつもなら玄関を覗きに行くはずのロンが私の傍に居て、お母さんが階段を上ってくる音がしたときに背伸びをしていた。
「江角君よ」
お母さんの口から出た名前に驚きはしなかった。なんとなく江角君なら来そうな気がしていた。直ぐに階段を降りようとすると、いつもは私のあとから降りてくるロンが先に降りて行った。
階段を降りると、そこにはやはり江角君が居た。学校帰りなのだろう、学生服にスポーツバッグを肩にかけている。





