Uターン⑧
「両方!?」
江角君が真剣な顔をしたので、鶴岡部長がフルート奏者を探していることを伝えた。
「つまり鶴岡部長から瑞希先輩に戻って来るようにしてくれと頼まれたということ?」
「瑞希先輩とは一言も言っていないけれど、今日の演奏を聴いてそう思った……」
「おそらく鮎沢の感は当たっていると思う……しかし、何で代わりに鮎沢が……」
「千春が辞めることはないよ!もともと私たちが入った時に瑞希さんなんて吹奏楽部には居なかったんだから」
里沙ちゃんが、そう言ってくれたけど私のモヤモヤとした気持ちは晴れないままだった」
月曜日の放課後、鶴岡部長に瑞希先輩が復帰する意思がある事を告げると「ありがとう」と言ってもらった。
やはり鶴岡部長のお目当ては瑞希先輩だった。
私は約束通り部長に辞めると付け加えた。
部長は一瞬動きを止め、何か考えている風にも見えたけど特に私の退部に関して、止めることもなく「そうか」と一言付け加えただけだった。
涙は出なかった。ただ無性に寂しく感じたまま廊下を逆に歩いていた。
向こうから走って来る里沙ちゃんが「早く行かないと遅れるぞぉー!」と元気よく声を掛けてくれたけど、言葉も返せずに微笑むことしかできなくて、そしたら急に悲しみが襲って来て下駄箱まで階段を走って降りた。必要にされていない失望感が私を覆う。





