Uターン⑦
「あれ!伊藤君は?」
里沙ちゃんの言葉に江角君が困ったように答える。
「伊藤の奴、瑞希先輩を追いかけて行った」と……。
江角君は、そう言うなり私の前にドカッと座り「なんかあった?」と聞いてきたので「何も……」と、また嘘を言ってしまう。
江角君は「そうか……」とだけ私に告げて黙った。
「伊藤、どうして瑞希先輩を追いかけて行ったの?ひょっとして好きなの?」
里沙ちゃんが場を明るくしようと思って、伊藤君の話を催促する。お調子者の伊藤君の話なら屹度笑い話になると思っていたに違いないし、私もそう思っていた。
聞かれた江角君は私の顔を見たまま言った。
「伊藤は、泣きながら走っていた瑞希先輩を追って行った」と。
……分かっていた。
瑞希先輩が帰り道で泣いている事。
でも、分からないのは、どうして瑞希先輩の復帰に私の退部が必要なのか。
意地悪何かで、そんなこと言う人じゃない。
冷静な江角君なら分かるかも知れない。でも……言っていいものか……。
「迷っているなら、言ってしまえば?」
「えっ?!」
「鮎沢と瑞希先輩の間に何があったの?」
「分からない……。ただ」
「ただ?」
「ただ、吹奏楽部に帰って来て欲しいと」
そう。吹奏楽部に帰って来て欲しいと言ったら、代わりに私に吹奏楽部を辞める条件を付けられたことを話した。江角君からは瑞希先輩に部活に帰って来てもらいたいと言うのは私の意思か、それとも違う誰かの意思を伝えたものなのか聞かれたので、その両方だと答える。





