Uターン⑤
カチャンと言う音に気が付くと里沙ちゃんが頼んだ紅茶を持ってきてくれた。
「用事終わったら私も直ぐ来るね!」
里沙ちゃんがウィンクして帰った。
用事とは里沙ちゃんのではなく私の用事だと言うことは目を見て分かった。
目の前に意識を戻すと、瑞希先輩がカップにスプーンを入れてクルクルと回している。
「ふ~ん、あの鶴岡部長がねぇ……募集か……でもフルートは沢山居るでしょ。なんで?」
「それは……それは分かりませんが、ひとりだけ足りないと言っていました」
とても恥ずかしくて、私のような人を探しているなんて言えない。
でも瑞希先輩の顔は、なんだか復帰するのが嬉しいみたいに柔らかくなっていた。
「あの鶴岡部長が皆の前で、そんな弱音を吐くなんて珍しいわね……」
今日の練習で瑞希先輩のフルートを聞いてピンと来た。
鶴岡部長が捜しているのは瑞希先輩の音だと。
何が原因か分からないけれど、瑞希先輩を追い出すようにメンバーから外した鶴岡部長にしては弱音を吐いていると言うことなのだろう。
でも、それだけ鶴岡部長は瑞希先輩を必要としている。
ただ……、鶴岡部長にも意地やプライドがあるから、それを皆の前では言えないし、特に本人に直接なんて言えなかったのだろう。
それだけは部長のプライドのために伝えておくべきだと思った。
「いえ。皆には言っていません。私がそう相談を受けました」
言い終わった時、スプーンを回す瑞希先輩の手が止まった。
「鶴岡部長が、あなたに……?」
話の経緯まで詳しく説明すると余計紛らわしくなるので「はい」とだけ答えると瑞希先輩は持っていたスプーンを置き暫く考えてから答えを返した。
「分かりました。吹奏楽部に戻ります」
やった~!これで瑞希先輩と一緒に練習ができる。
そう思ったのもつかの間、瑞希先輩の口からは思いもよらない言葉が返ってきた。
「ただし、条件があります」
「条件、ですか?」
「そう……。もしも千春さんが言う通り、私が鶴岡部長のお目当てのフルート奏者だとしたら……」
「……」
「千春さん。……あなたに吹奏楽部を辞めてもらいます」
最初何を言われたのか全く分からなかった。
私が吹奏楽部を辞める?
いったいどういうこと……?





